Σ(゜д゜lll) 最速でつぶす
ウルフェニックスは素早く右の腕にだけ、魔力の炎をまとわせる。
その炎がタンポポ色なので、
(やはり夜は力が落ちる)
ウルフェニックスは『天狼』だ。『不死鳥』と『人狼』の混血である。
基本的には人の姿だが、昼なら『不死鳥』に、夜なら『人狼』に変身することが可能。
また、変身できない時間帯であっても、夜に『不死鳥』由来の力を、昼に『人狼』由来の力を使うことができる。
ただし、変身できる時間帯と比べて、その力はかなり落ちてしまうが。
ウルフェニックスは機敏に右腕を振る。腕にまとわせていた炎を、空中へと解き放った。
タンポポ色の炎が、大きな鳥の形へと変わっていく。毒の入った小瓶目がけて、一直線に向かっていった。
そして、空中で追いつくと、炎の鳥は小瓶を飲み込む。
炎の色に変化はない。だが、あれで中身の毒は「浄化」した。『不死鳥』の炎には、そういう効果がある。
そのあと炎の鳥は、ふわりと地面に舞い降りた。渋滞している馬車群の前にだ。
ここから先、金色兜が今と同じことをしてきたとしても、あの炎の鳥が毒を防ぐ。
銀色の兜をかぶった二人がとっさに動いた。どちらも小型の刃物を持っている。どうやら、木の枝から吊るされている男たちを、人質に使うつもりらしい。
本当に、性格の悪い戦い方をしてくる。
ここで金色兜が殺気を放った。ウルフェニックスにではなく、銀色兜たちに対してだ。
余計なことをするな、という意味での殺気らしい。
悪くない判断だと、ウルフェニックスは密かに評価する。
人質をとるなら、あの二人を先に倒すまでだ。最速でつぶす。手加減は期待しないでもらいたい。人質の皮膚に刃物が触れた瞬間に、一撃で仕留める。
そうなるのを予想したからこそ、あの金色兜は仲間たちを制した。銀色兜たちの実力では対応できないと、きちんと理解している。
(さて、どうするか)
ウルフェニックスの頭に、さまざまな選択肢が浮かんでくる。最善と思えるのはどれか。
すぐに答えが決まる。
「あまり時間をかけるわけには、いかないんでな」
ウルフェニックスは金色兜に笑いかけると、胸の前で両腕を交差させる。
ストレッチでもしているポーズに見えるだろうが、これは「ある必殺技」の初期動作だ。
さらに続きの動作を行う。両腕の交差を解除すると、体の右側で構え直した。
ウルフェニックスの両腕に、急速に魔力が集中していく。
そこに全力の叫び声が響き渡った。
「目を閉じろ! 今すぐにだ!」
地面に倒れている者たちの中に、この技のことを知っている者がいるらしい。渋滞している二〇台以上の馬車に向かって、声を張り上げている。
(侍従武官時代の部下でも混ざっていたか)
その声を耳にしながら、ウルフェニックスは金色兜を直視して、はっきりと告げる。
「『光収束』」
この瞬間、強烈な閃光が一気に周囲へと放たれた。




