Σ(゜д゜lll) 競争相手を減らす
ウルフェニックスは小さくため息をつく。
(やれやれ。こういう可能性を考えなくもなかったが)
今夜の舞踏会、この国の王子が結婚相手を決めるらしい、そんな噂が広まっている。
なので、いつもの舞踏会より「気合いを入れてくる者」がいても、おかしくない。そう、こんな風に。お城までの道のり、その途中で襲って、競争相手を減らすのだ。
王子との結婚がかかっている以上、このようなことを「思いつく者」は、それなりにいるだろうが、
(まさか本当に『実行する者』がいるとはな)
しかも、冗談にならないレベルで。
この周囲は、なかなかの惨状になっている。
ウルフェニックスの後方では、先に進めなくて困っている馬車で、渋滞していた。その数は二〇を下らない。
また、襲われた馬車に乗っていたご令嬢たちが、道端で泣き崩れている。
(さっさと片づけるか)
ウルフェニックスは三人組の一人に狙いを定める。金色の兜をかぶっている奴だ。
気配でわかる。こいつがずば抜けて強い。
他の二人はせいぜい、お城の兵士たちと同程度の力量。
あの金色兜さえ排除できれば、この場の混乱を収拾することができるだろう。
すると、金色兜が仲間の二人に対して、指文字で合図をした。
(『手を出すな』か)
他の二人の力量をよくわきまえている。
そうしておいて、金色兜はジャージのポケットから、小さな瓶を取り出した。中に入っているのは、紫色の液体だ。
あの色からして、
(毒か)
ウルフェニックスは一瞬で見抜く。
何の毒かまでは、わからない。だが、常人にとって、かなりの猛毒なのは間違いなさそうだ。そんな色をしている。
(さて、あの毒をどうする気だ)
毒は扱いが難しい。細心の注意が必要になる。だから、普通は陰でコソコソ使う。あんな風に、わざわざ見せつけたりはしない。
ウルフェニックスが小瓶を警戒していると、金色兜が次の動作をする。小瓶を握る手に力を込めた。
瓶の表面に、細かいヒビがいくつも走る。絶妙な力加減だったようで、中身は少しも漏れていない。
だが、あの状態で放り投げてきたら、こちらが軽くキャッチしただけでも、瓶は割れてしまうだろう。地面に落としてもまずい。あの毒が急速に気化するものなら、この周囲に被害が拡大する。
ウルフェニックスは心の中でため息をつく。相手の意図に気づいたのだ。
次の瞬間、ヒビの入った瓶を投げてくる金色兜。
直線ではなく大きな曲線だ。ウルフェニックスに向かってではない。馬車が渋滞している方に向かってだ。大勢がいる方に。
(やはり、そうするよな)
性格の悪い戦い方をしてくる。邪道を尊ぶ連中にとっては、王道の戦法。
(しかし、俺が相手だ。運が悪かったな)




