Σ(゜д゜lll) 第二種戦闘配置
少し時間をさかのぼる。
テテルたちがヴァンプラッシュ先生と戦っている頃、クーたち四人はホテルに接近しつつあった。
お城に一番近いホテルだ。「おだんご屋さん」での作戦会議中に、テテルが一番安い部屋を手配したホテル。
見た目はおおむね「一流ホテル」だが、色々と普通じゃない施設もある。
たとえば、庭園の外側には「厚い防壁」があった。さらには、「兵士たちの詰め所」や「複数の砲台」なども備えている。お客さんじゃない山賊が大勢やって来ても、これなら安心だ。
おそらくだが、このホテルはその立地上、もしもの時には砦としての役割も担っているのだろう。敵がお城に向かって攻めてきたら、ここが前線基地になる。
そんな場所に、クーたち四人は「超巨大馬車」でやって来たのだ。
当たり前のことだが、大騒ぎになる。兵士たちによる第二種戦闘配置。砲台の周囲が慌ただしくなった。
一方、馬車の中ではスティンクルが、外の騒ぎに気づいて、
「夜ごはんの前に、もう少し運動しておこうかな。適度な運動は、健康の調味料。カボチャはまだまだあるし。さて、今回はどう料理しよう♪」
悪い顔で準備運動を始めた。
そんな一触即発の状況で、クーが動く。
「ぼくたちは敵じゃありません」
そう言って、一人先に馬車から降りた。ホテルの予約客であることを、兵士たちに告げる。
彼らはざわついていたが、そこに一人の男性が進み出てきた。
ホテルの支配人だ。
「テテルさま御一行ですね。お待ちしておりました」
支配人が深々と頭を下げるのを見て、兵士たちが緊張を解く。
一方、馬車の中ではフォーテシアが、
「お城の舞踏会だから、美味しい物がたくさんありそう。たとえば・・・・・・」
スティンクルの注意を、兵士たちから逸らしていた。
こうして危機は回避されたのである。
「あの、連れは遅れてきます」
「わかりました。それでしたら、防壁の外側に出迎えの者を立たせておきましょう」
「あと、予約の時よりも、人数が増えてしまったんですけど」
クーは少しもじもじしてから、
「四人から八人に」
さすがに、もう一部屋とらないと、まずいかな。そんなことを考える。
しかし、支配人は嫌な顔一つせずに、
「かしこまりました。長旅でお疲れでしょう。まずは、建物の中にお入りください」
そして数分後。
キナコ、スティンクル、フォーテシアはウェルカムドリンクを飲みながら、
「私、ここ初めて。結構ドキドキしているかも♪」
「ねーねー、あのさー、部屋の中に入るの、私が一番ね。ふかふかベッドに大の字ダイブするの予約っ!」
「・・・・・・シンデレラたち、大丈夫かな」
三人はロビーのソファーでくつろいでいる。
そんな中、クーだけがフロントで一人、支配人から衝撃の事実を聞かされていた。
「ですので、誠に申しわけございません」
真横から分度器で測りたくなるほど、整ったお辞儀をしてくる支配人。
重大な問題が起きていた。
ダブルブッキングである。テテルが予約した部屋は、すでに他のお客さんが使用中らしい。
「それで、別のお部屋にご変更させていただきたいのですが」
支配人がフロントデスクに、ホテルのパンフレットを広げた。
そこに載っている写真に、クーは目を丸くする。
スイートルームだ。広くてゴージャス。
(この部屋って、ものすごく高いんじゃ・・・・・・)
そんな不安を抱えるクーに対して、支配人が告げてくる。
「こちらの落ち度ですので、料金は元のお部屋と同じにさせていただきます」
さらに、スイートルーム内に置いてあるお菓子や飲み物も、すべて無料にするという。
クーは内心で警戒した。どう考えても話がうますぎる。何かの罠かもしれない。
すると、支配人がさり気なく、一枚の小切手を見せてきた。高額の小切手だ。
「ここだけの秘密ですが、こういうことですので」
小切手の署名は、ヴァンプラッシュ先生のものだ。どうやら、先生が裏で手を回してくれたらしい。本当はダブルブッキングではなく・・・・・・。
「他の方々には内緒でお願いします」
「わかりました。ぼくだけの胸にしまっておきます」
クーは安心する。エクスアイズ先生ならともかく、ヴァンプラッシュ先生なら罠の可能性はない。そういう人だ。あの先生は。
ホッとしたのも束の間、クーは別のことが気になってくる。
ここまでの道中、ヴァンプラッシュ先生以外の三人、ゾーンビルド先生、ウルフェニックス先生、エクスアイズ先生の気配を感じなかった。
(お城までの残りの距離を考えると、このホテルに着くまでに、もう一人くらい待ち構えていそうなのに)
戦闘を覚悟していたけれど、三人の先生の誰とも出会わなかった。
(ぼくやテテルが早とちりしただけで、ヴァンプラッシュ先生が現れたのは、課題じゃなくて別の目的? 先生たちと戦わなくて良いなら、それに越したことはないけど・・・・・・)
クーはスイートルームの鍵を受け取ると、キナコたちの方に戻ろうとした。
その時だ。ホテルの窓から閃光が飛び込んでくる。
突然のことに、ホテルの中だけでなく、ホテルの外も騒がしくなった。第二種戦闘配置に動く兵士たち。
光が少し弱まってきたところで、クーは見た。
テテルやリプリスがいるのとは別の方角だ。地表から空に向かって、「光の柱」が出現している。
(あれは!)
クーは知っている。あの「光の柱」は、ウルフェニックス先生の『光収束』だ!




