Σ(゜д゜lll) 私、知ってるもんね
シンデレラが指摘すると、男は再び焦り出した。
「な、何だと! 失礼な! 俺は本物だぞ!」
「ウソだね。私、知ってるもんね」
この男は以前、キナコの「おだんご屋さん」でナンパをしていたのだ。
で、店の看板娘であるキナコが、その迷惑行為をやめるよう、男に何回も注意した。
なのに、まったく聞く耳を持たない。
すぐにフォーテシアをナンパし始めたので、とうとうキナコが怒った。
男の腕を素早くつかむと、
「えいっ!」
彼女は「古流柔術」の使い手だ。
あの時、シンデレラは初めて見た。キナコの『走り一本背負い投げ・みたらし』。このニセ王子を店の地面に叩きつけたのだ。
しかも、それで終わりではなかった。キナコの技はさらに続く。
叩きつけられた反動で、ナンパ男の体が空中に戻ってきた。
そこに矢のような鋭い蹴りを叩き込む。キナコの『空中弓蹴り・あんこプッシュ』だ。
強烈な蹴りを食らって、ナンパ男の体が弓のようにしなる。そのまま壁の方へと吹っ飛んでいった。
ナンパ男が壁に叩きつけられる。かなりの衝撃だ。その反動で、男の体が前方に戻ってくる。
そこに突進していくキナコ。
さらにさらに、追い打ちをかける。ナンパ男の頭を両手でつかむと、突進してきた勢いのまま、その後頭部を壁に叩きつけた。キナコの『突進打突・ごまクラッシュ』だ。
彼女は「おだんご屋さん」の看板娘であるのと同時に、用心棒でもある。あの店の平和を守っているのだ。あの店で問題を起こすのは、絶対にやめておこう。
これらの連続技によって、ナンパ男は失神した。すぐには目を覚ましそうにない。
キナコが息一つ乱さずに言う。
「シンデレラちゃん、フォーテシアちゃん、少し手伝ってくれる?」
何をするのかと思ったら、
「『きびだんご』を口に詰めたあと、簀巻きにして川に放り込むの」
その共犯者にならないか、という勧誘だ。この「おだんご屋さん」、すぐ近くに川がある。少し下流には大きな滝もあった。
「そうそう、口に詰める『きびだんご』は賞味期限切れのやつだから、つまみ食いしちゃダメだよ。それでお腹を壊しても、当店は無関係です。あしからず」
このタイミングで、数人の男たちが「おだんご屋さん」に入ってきた。
壁際に倒れているナンパ男を見るなり、
「またか。こりないお人だ」
ほとんど一瞬で、おおよその状況を察したらしく、
「どうもすみませんでした。このバカがとんだ失礼を」
男たちが一斉に頭を下げてくる。
どうやら、このナンパ男、他の場所でも同じようなことをしているらしい。
で、その後始末に、仲間の男たちが慣れていた。店への謝罪。居合わせた客たちへの陳謝。迷惑料に口止め料。
それらと並行して、仲間の一人がナンパ男の意識を戻そうと、水をかけたり、往復ビンタをしたりしている。
しかし、なかなか目を覚まさないので、
「あの、ご希望でしたら、『タバスコ水』とか用意できますけど」
キナコが穏やかな顔で、さらりと提案している。その手にはすでに、バケツが待機中だ。中身は真っ赤な液体である。
男たちの一人が、ちらりとバケツの中を見た。
まったく表情を変えずに、
「すみません、お願いします」
「はい、どうぞ。特別に激辛にしておきました。当店からのサービスです」
「それはそれは、ご親切に」
この間に、フォーテシアが「きびだんご」を千切って、ナンパ男の鼻に詰めている。『タバスコ水』が鼻孔に入らないようにだ。さすがに、かわいそうだと思ったらしい。
男たちの一人が、バケツの中身をナンパ男にぶちまける。『タバスコ水』の効果は「てきめん」だった。
ナンパ男が目を覚ました。奇声を発しながら、のたうちまわっている。壁にもぶつかりまくっていた。
それで、鼻の穴に詰めてあった「きびだんご」が外れたらしい。奇声がパワーアップする。
「他のお客さんの迷惑」
そう言ってフォーテシアが、バケツで普通の水をぶっかけること五回。
ようやく奇声が止まった。
ナンパ男は店の地面で大の字になったまま、
「何をする! 俺は王子だぞ!」
しかし、仲間の男たちが即座に訂正する。
「いいえ、ウソです。ニセモノです。たまに、こういうことを言い出すんです。信じないでください」
ナンパ男の口に猿ぐつわをはめた。
そして、ナンパ男の体を担いで、男たちは店を去っていったのである。
あの時のニセ王子が、ここにいる「こいつ」なのだ。
「失礼な! 俺は本物だぞ!」
「ウソだね。私、知ってるもんね」
わっはっはと勝ち誇るシンデレラ。こんなことで騙されるほど、お人好しではないのだ。
ところが、リプリスが困った顔で告げてくる。
「その人、本物の王子ですよ。隣国のリチャード王子です」
まさかの発言に、シンデレラはうろたえる。
「しょ、証拠は」
そうだ、リプリスの勘違いかもしれないし・・・・・・。
「こうなっては仕方がないな。国外ではみだりに見せるな、と言われているのだが」
王子(?)が『国際運転免許証』を見せてくる。名前はリチャードで、備考欄には『王室特権』。王子じゃなくても、王室関係者なのは確定だ。いや、これが偽造品だという可能性も少しは・・・・・・。
シンデレラは王子(?)のマント、その留め金具に彫られている紋章を盗み見た。
うーむ、隣国の王室が使っている紋章って、こんな感じだったかも。しかも、これ、純金っぽいし・・・・・・。
「どうやら、本物の王子で間違いないみたいだね」
テテルがだめ押ししてくる。
シンデレラはパニックに陥った。




