Σ(゜д゜lll) おー
ぽかんとするシンデレラ。
すると、テテルがもう一度、
「今からお城に行きたいかー!」
シンデレラは少し戸惑ったものの、この流れにつき合ってあげないと、かわいそうな気がしたので、
「おー」
自分も右の拳を突き上げた。
「今夜の舞踏会に参加したいかー!」
「おー!」
「で、素敵な王子さまと結婚したいかー!」
「おっ? おー!」
ぱちぱちぱちぱち。拳を下げてから、拍手をするテテル。
「じゃあ、これ。この契約書にサインをよろしく♪」
「え?」
血しぶきがついた羊皮紙と、動物の骨を削ったペンを、テテルが渡してきた。
シンデレラは警戒する。
魔女との契約だと・・・・・・。
「ただでお城に行けるんじゃないの?」
「そういう無料キャンペーンは、一昔前に終わったよ。時代が変わっちゃったんだよね。今は『対価』が必要な時代」
「『対価』って・・・・・・魂とか寿命とか?」
そこでシンデレラは閃いた。
「じゃあ、継母ので払います! 出血大サービスで、義理の姉二人の分もつけちゃいます! 持ってけ、ドロボー♪」
これに対して、くすっと笑うテテル。
「時代が変わっちゃったんだよね。そういうので払われても、今は迷惑な時代。魔女のライフスタイルも変わったんだよ」
そのあと、テテルは急に凶悪な笑みを浮かべると、
「『対価』はもちろん、お・か・ね♪」
「お・か・ね?」
よく似たイントネーションで返してから、シンデレラは落ち込んだ。
「私、お金はあんまり持ってなくて・・・・・・」
やはり世の中、お金なのか。お金がなければ、誰も助けてくれないのか。心の中で嘆くシンデレラ。ああ、世間が憎い憎い憎い!
すると、テテルが元の表情に戻って、「違う違う違う」と訂正してきた。
「私の計画はこう。シンデレラがお城の舞踏会に行く。で、王子と結婚する。そのあと、この金額を私に払う。それで、みんな幸せ。ハッピーエンド」
契約書の一部を強調してくる。そこに書かれているのが、この契約の『対価』らしい。
シンデレラは考える。自分には絶対無理な金額だが、王子さまなら「はした金」だろう。
「支払期限は結婚式から一年以内。お城の金庫室に入る手引きをしてくれるだけでいいから。あとはこっちで何とかする」
「でも、王子さまと結婚なんて、そんなにうまくいくはずが・・・・・・」
「そこは私も不安だけど、『先生』が何の勝算もなく、シンデレラを選んだとは思えないし・・・・・・」
「先生?」
「あ、いや、何でもない! ない!」
急に慌てるテテル。
「で、どうする? そっちは失敗しても、ノーリスク確定だけど」
シンデレラは契約書と、にらめっこした。少しの間、熟読する。
たしかに、王子さまと結婚できなくても、ノーリスクっぽい。
お城に連れて行ってもらって、たくさん食べて、たくさん飲んで、たくさん楽しんで、おみやげをたくさんもらったとしても、「全部無料」なんて、まじで最高!
ただし、自分はノーリスクだけど・・・・・・。
「私が王子さまと結婚できなかったら、テテルちゃん」
シンデレラは申しわけなさそうに、その先をつぶやく。
「魔女の学校を『退学』になっちゃうの?」
そういう文章を、契約書の中に見つけてしまったのだ。
しばらく無言だったが、テテルは観念した顔になって、小さくうなずいた。
ミッション失敗で、即『退学』。
それは当然、シンデレラが契約しなかった場合も含まれる。
「じゃあ、一緒にがんばろう!」
シンデレラは契約書に力強くサインした。
だって、自分はノーリスク♪