Σ(゜д゜lll) 健康のために
「あと、『好きなものを飲んで、待っていてください』って、リプリスが」
シンデレラが彼女の言葉を伝えると、
「それは助かるかも」
マルリアさんが自動販売機の商品を、一つずつ確認していく。
「残念。ビールはないんだ」
彼女は少し考えてから、
「健康のために、これにしようかな」
トマトジュースを選んだ。
(私も何か飲もうかな)
シンデレラがミネラルウォーターのボタンを押そうとした、ちょうどその時だ。
いきなり鋭い音がして、ボタンの裏側から何かが突き抜けてくる!
突然のことに、シンデレラは心臓が止まりそうだった。
突き抜けてきたのは、テテルの爪楊枝だ。その先端部分。
爪楊枝の先端を凝視したまま、シンデレラはつい想像してしまう。
もしも、このボタンを押すタイミングが、ほんの少し早かったら・・・・・・。
もしも、この爪楊枝に、あと少し威力があったなら・・・・・・。
わざとじゃないのはわかるけれど、テテルにはもう少し気をつけて欲しい。さっきもリプリスが駆けつけていなければ、大変なことになっていた。
とはいえ、戦っている相手が強すぎるのだから、テテルにそこまで求めるのは酷な話かも。
仕方がない。こっちで気をつけよう。
爪楊枝が刺さっている場所から、シンデレラは少しだけ横に移動する。ミネラルウォーターはやめた。他の飲み物にしよう。
そして、ちょうど目の前にあったのが――
(ん・・・・・・)
それは小さな閃きだった。もしも、「あれ」が可能なら・・・・・・。
シンデレラはその閃きを、すぐさま行動に移す。
マルリアさんと同じ飲み物、トマトジュースを選ぶと、それを持って、自動販売機の横に出た。
「テテルー!」
大声で叫んでから、トマトジュースの缶を投げる。
ヴァンプラッシュ先生目がけて。
(テテル、気づいて!)
シンデレラの家で、テテルがやっていた。彼女が投げた爪楊枝が刺さると、「トマト」が爆発していた。
もしも、「トマトジュースの缶」でも爆発させることができるなら・・・・・・。
それは、ちっちゃな期待だった。そんなこと、実際には無理かもしれない。
(でも、それが可能なら、私も一緒に戦える!)
テテルの顔がかすかに笑った気がした。その目はイタズラに飢えている。
直後に彼女が爪楊枝を投げた。
それが勢いよく飛んでいく。正確無比なコントロールで、トマトジュースの缶に突き刺さった。
シンデレラの視線の先で、缶が爆発する。
当たりだ。トマトジュースでも同じことが可能らしい。
(だったら・・・・・・)
シンデレラは自動販売機の前に戻ると、トマトジュースのボタンを連打しまくる。
「マルリアさんも手伝って!」
数秒後、二人で缶を持って、投擲を開始した。
シンデレラの投げた缶に、テテルの爪楊枝が再び突き刺さる。
またもや爆発した。しかも、ヴァンプラッシュ先生の至近距離だ。
先生の体勢がわずかに崩れる。
そこにすかさず、白い木刀を突き出すリプリス。
が、ぎりぎりで回避されてしまう。
とはいえ、戦いの流れがはっきりと変わった。
今の状況、ヴァンプラッシュ先生からすれば、シンデレラたちが投げるトマトジュースの缶も警戒しなければならない。
しかし、テテルの爪楊枝が、常に缶を狙うとは限らないのだ。先生に直接投げてくることも考えられる。そちらも警戒しなければならない。
(ここで一気に畳みかける!)
シンデレラはトマトジュースの缶を補充すると、ヴァンプラッシュ先生目がけて次々と投げつけた。放物線の軌道だ。
テテルの爪楊枝が、それらの缶を順番に爆発させていく。
この時、シンデレラはこう考えていた。
(この連係攻撃、たぶん長くは通じない)
ヴァンプラッシュ先生はすぐに慣れて、適切な対応をしてくるだろう。それほどの実力差があると、ここまでの戦いでわかっていた。
(だから、そうなる前に勝負を決める!)
さあ、マルリアさんも。そう言いかけて、シンデレラは気づく。
すでに彼女も缶を投げていた。
が、まるで届いていない。半分くらいの距離で、どの缶も落下している。投げる力が足りていないのだ。
マルリアさんは泣きべその一歩手前だった。それでも彼女は一生懸命に、トマトジュースの缶を投げている。
でも、今回の缶も届かな・・・・・・
「ナイスパスです!」
声を発したのはリプリスだった。彼女が缶の予想進路上に、一直線に走り込んでくる。
そして、タイミングを合わせて体を素早く回転させた。
純白の防具に覆われた脚部が、マルリアさんの缶をとらえる。サッカーのボレーシュートのような動きで、缶を最前線へと送り込んだ。
これまでシンデレラが投げたのとは違って、今回は直線の軌道な上に、速さもある。
この場面で外すテテルではない。爪楊枝を二本、同じ標的に向かって投げつけた。
次の瞬間、二本の爪楊枝が両方とも命中する。
ヴァンプラッシュ先生の真正面で、トマトジュースの缶が大爆発を起こした。




