Σ(゜д゜lll) テテルの弱点
テテルが戦っている。
その様子を、シンデレラは不安げに見守っていた。
少し見ただけでもわかる。あのヴァンプラッシュ先生、ものすごく強い。
テテルはかなりの速さで木刀を繰り出している。なのに、それを完全に見切っていた。最小限の動きで回避している。今のところ、ヴァンプラッシュ先生はほとんど反撃していない。
なおもテテルが攻め続ける。体勢を変えながら、上段、中段、下段、と黒い木刀を高速で繰り出していた。
と同時に、いつ先生からの反撃がきても対処できるように、きちんと警戒している。
テテルの攻撃は決して雑ではない。彼女も普通に強い。
だが、相手との実力差は明らかだ。攻撃がまったく当たらない。これが最強、ヴァンプラッシュ先生。
ハイレベルな二人の戦いに、シンデレラは見入っていた。至近距離での激しい攻防。あの二人がものすごい速さで、ダンスをしているようにも見える。
テテルはまだ得意の爪楊枝を使っていない。あれに期待したいけれど、至近距離からの木刀が、ああも回避されているようでは・・・・・・。
(まずいな)
何とか突破口を見つけようと、シンデレラは戦いを注意深く観察する。
ヴァンプラッシュ先生に何か弱点はないか。ちょっとした癖のようなものでもいい。
せっかく、この場にいるのだ。相方の力になりたい。
しかし、それよりも先に見つけてしまう。
テテルの弱点だ。
またもや彼女が攻撃を繰り出した。
このあとにどう動くのか、シンデレラには予想できる。
それもそのはず、テテルの攻撃は色々と変化をつけているようで、実際にはそうじゃない。七種類のパターンを組み合わせているだけだ。
だから、シンデレラでもほぼ正確に予想できる。次の技はたぶん、こう。あの体勢からつなげることができる技は、七種類の中で一つか二つだ。彼女は非常に窮屈な戦い方をしている。
このことにテテルは気づいているのだろうか。もっと変化をつけないと、攻撃が当たらない。
でも、彼女の考えも少しはわかる。あの動き、一朝一夕で身につけたとは思えなかった。たぶん、テテルが普段から練習している攻撃動作だ。その中でも特に自信があるのが、あの七種類の動きなのだろう。
相手が強すぎるからこそ、攻撃に求められるのは、「速さ」や「隙の少なさ」。未熟な攻撃では、手痛い反撃を食らうことになる。
シンデレラはなおもテテルの動きを観察した。
たしかに速い。隙も少ない。
しかし、攻撃が当たらなければ意味がない。
(ひょっとして、テテルって・・・・・・)
シンデレラは気づく。
(応用力に難があるんじゃ・・・・・・)
決められたことをきっちりやるのは得意でも、そうじゃない場面では融通が利かないタイプ。戦いの中での機転を大きく欠いている。
しかし、そのことを今すぐテテルに伝えても、戦いの結果が好転するとは思えない。
たぶん、彼女自身も気づいている。でも、他の戦い方に変えることができないんじゃ・・・・・・。
そこで急に、テテルが攻撃のパターンを変えた。
これまでにない角度からの、片手による木刀の突き。
と同時に、もう片方の手で数本の爪楊枝を投げている。
が、無茶な体勢だったために、テテルが転倒した。地面に背中を打ちつけている。
しかも、木刀はかわされてしまった。爪楊枝もすべて当たらない。奇襲失敗だ。
さらに悪いことに、その爪楊枝がこちらに向かって飛んでくる!
とっさのことに、シンデレラは動けなかった。逃げなきゃいけないのに、そんな思考に体がついてこない。
迫りくる爪楊枝。
やばい、直撃コースだ!
頭に浮かんだのは、トマトが「爆発」する光景だった。シンデレラの家で、テテルがやっていたやつだ。彼女が投げた爪楊枝が刺さると、トマトが爆発していた。
(これって、絶体絶命の状況?)
突然、後方からの一陣の風が、シンデレラの真横を駆け抜けた。
そして、自分のすぐ前から聞こえてくる。
「『緊急召喚』!」
そこには、黒いドレスを着た女の子がいた。頭には「縁のついたとんがり帽子」、両腕と両脚には「純白の防具」をつけている。
リプリスだ!
彼女がしゃがみ込んで、地面に手をついている。その地面には、魔法陣が出現していた。
魔法陣の中から瞬時に、何かが飛び出してくる。「自動販売機」だ。
それが金属の壁として、その背中で爪楊枝をすべて受け止めた!
(爆発する!)
シンデレラは思わず、自動販売機から顔をそむけた。
だが、何も起こらない。どうやら、あの爪楊枝が刺さっても、自動販売機は爆発しないようだ。
シンデレラがホッとしていると、リプリスが立ち上がる。
彼女は自動販売機に紙幣を投入しながら、
「好きなものを飲んで、待っていてください」
口調は穏やかだが、全身から発する雰囲気は、すでに臨戦態勢だ。
リプリスがすたすたと、自動販売機の前に移動する。
シンデレラは自動販売機の横から、少しだけ顔をのぞかせた。戦いの巻き添えになるのが怖いので、体の大部分は安全地帯の外に出さない。
彼女がヴァンプラッシュ先生に会釈をする。
「先生、ここから先は私も参加させてもらいます」
黒いスカートの下から、白い木刀を取り出した。
「問題ない」
そう返してくるヴァンプラッシュ先生。
これで二対一だ。自動販売機の陰から顔を出したまま、シンデレラは考える。
(リプリスの加勢で、戦いの流れが変わってくれるといいけど・・・・・・)
さらに、こんなことも考える。
(この戦いが終わったら・・・・・・)
自動販売機を召喚する魔法か。これが使えたら便利かも。ちょっとがんばったら三日くらいで習得できる、そんな感じのやつなら、ぜひとも教えてもらいたい。




