Σ(゜д゜lll) みんな、あとで会おう
黒い木刀を構えたまま、テテルは内心で笑っていた。
シンデレラは少し勘違いをしているみたいだが、自分は「貧乏くじを引いた」とは思っていない。逆だ。引いたのは「大当たり」だ。
ヴァンプラッシュ先生が発したわずかな気配、あれはおそらく「わざと」だろう。あの気配にいち早く気づいたからこそ、リプリスやスティンクルを出し抜くことができた。
そもそも、自分たち四人はそれぞれ担任が違う。
クーの担任が、ゾーンビルド先生。
スティンクルの担任が、ウルフェニックス先生。
リプリスの担任が、エクスアイズ先生。
そして、テテルの担任が、ヴァンプラッシュ先生だ。
今回のミッション、先生たちが何の根拠もなく、シンデレラたち四人を選んだとは思えない。この国の王子が好きそうなタイプとか、何らかの理由があるはず。
となると、このミッションの難易度は、そこまで高くないと思う。シンデレラたちをお城に連れて行けばクリアしたも同然とか、そんな感じなのかも。もしもの場合には、お金で解決することも可能だし・・・・・・。
ただし、自分たちの間で仲間割れが起これば、難易度は大きく跳ね上がる。そうなることを、先生たちは期待していたのかもしれない。
だから、あんなまぎらわしい契約書の文章にした。「一人だけがクリアできる競争」だと、印象づけようとした。
要するに、もともとは仲間割れありきの難易度設定だったのかも。最終的には四人が共闘するにしても、そうなるのはもっと遅いタイミングだと考えていたのかもしれない。
ところが、幸いなことに自分たちは現在、同盟関係にある。すでに仲間割れの心配は不要だ。
このままなら、シンデレラたち四人の誰かが王子と結婚して、自分たちの『退学』は取り消しになると思う。そんな楽勝展開になると、先生たちも考えたのではないか。しかも、かなりの確信を持って。
しかし、それはそれで問題があった。
もとはと言えば、今回のミッション、テテルたちが「校長先生の銅像にイタズラしたこと」に対する処罰だ。ミッションが簡単すぎると、校長先生が納得してくれない可能性がある。
それで先生たちは急遽、難易度の調整に動いたのかも。
もしも本当に、四人の先生たちがそれぞれ待ち伏せしていて、模擬戦闘をしかけてくるのなら、重要なのは「誰と戦うか」だ。
テテルたち四人が力を合わせて、「先生を一人ずつ倒していく」というのは、論外だろう。最初の一人に手こずっている間に、他の先生たちが駆けつけてくる可能性が高い。そのあとは一対一の勝負を強いられる。
また、あのままカボチャの馬車で逃走していたとしても、同じことになっていたはず。四人の先生たちに馬車を包囲されて、そこから先は一対一の勝負に引きずり込まれていた。
そんな風に予想したからこそ、テテルはあのタイミングで動いたのだ。自分が残れば少なくとも、ヴァンプラッシュ先生は馬車を追わない。
たしかに、四人の先生たちの中で、最強なのはヴァンプラッシュ先生だ。
けれども、テテルが最も戦いたくない相手は別にいる。
エクスアイズ先生は絶対に避けておきたい。
広範囲魔法が得意な上に、新しい魔法の実験台に生徒を使いたがる。予想しづらい戦い方をしてくるので、どうも苦手だ。
エクスアイズ先生は避けるに限る。
また、ウルフェニックス先生を相手にするのも、分が悪い。
近接格闘においては無敵を誇る先生だ。そのスピードは脅威。距離をとって戦いたくても、そうはさせてくれないだろう。
なので、エクスアイズ先生ほどではないが、ウルフェニックス先生も避けるに限る。
さらにゾーンビルド先生。
四人の先生たちの中で「最高の防御力」を持つ。固い。非常に硬い。とにかく堅い。
したがって、ゾーンビルド先生も以下同文。
そんな風に考えると、消去法でヴァンプラッシュ先生を選んだみたいだが、ちゃんとした理由が他にある。
だいたい、仮に四人の先生たちが戦ったら、最終的に勝つのはヴァンプラッシュ先生だ。そう他の三人の先生たちが認めている。
本当に消去法だけで決めるなら、真っ先に避けるべき相手。ヴァンプラッシュ先生が最強なのは間違いない。最強の必殺技を持っている。
その技を、テテルは直接見たことがあった。あれはすごい。ウルフェニックス先生の『光収束』を、はるかに凌駕していた。
そこに着目するなら、ヴァンプラッシュ先生が一番やばい。
でも、四人の先生たちの中で、「最も手加減してくれそう」なのも、ヴァンプラッシュ先生なのだ。
そういう意味では、自分が最も戦うべき相手。一番の「大当たり」だ。さすがに生徒相手に、最強の必殺技は使ってこないはず。
クーたち他の三人には悪いけれど、ここは少し楽をさせてもらう。
といっても、こっちが本気で戦わなければ、いくらヴァンプラッシュ先生でも、先に進ませてはくれないと思う。
そんなわけで再戦だ。学校の時計台を破壊するのに失敗して、ヴァンプラッシュ先生と対峙してから、まだ二十四時間も経っていない。
あの時は一瞬で降参したが、今回は違う。
クー、スティンクル、リプリスの顔を順番に思い浮かべてから、
(みんな、あとで会おう)
テテルは心の中でつぶやくと、黒い木刀を手に突進した。
テテル vs ヴァンプラッシュ先生 (戦闘開始)
クー vs ???
スティンクル vs ???
リプリス vs ???




