Σ(゜д゜lll) まさか、五人目の魔女?
「これ、テテルがやってるの?」
そうだよ的な答えを期待しながら、シンデレラは聞いてみる。
攻撃しているような素振りを、テテルはしていない。なのに、山賊たちは次々と落馬している。魔法でもなければ不可能だ。
これがテテルの仕業なら、彼女が爪楊枝を構えようとしなかったのにも納得がいく。その前に勝負はついていたのだ。
しかし、テテルからの答えは、
「私じゃない。別の者の仕業」
シンデレラは気づく。テテルの顔は正面を向いていない。少しだけ横にずれている。
その延長線上にいるのは、山賊たちのリーダーではなかった。すぐ近くにいる別の奴だ。
こいつも山賊らしくない格好をしている。大きな白い布をかぶっているので、正体は不明だ。
でも、シンデレラは見抜いていた。あんな格好なのに、巧みに馬を乗りこなしている。布で視界が制限されているのに、山賊たちのリーダーよりも断然うまい。テテルが最優先で警戒するのもうなずける。
この直後、山賊たちのリーダーが落馬した。
ここまでに落馬した山賊たち、彼らに対して、シンデレラはさっと目を走らせる。
不思議なことに、どうやら全員、眠っているようだ。
ひょっとして、そういう魔法なのか? 複数の人間を眠らせる魔法?
(その使い手は、どう考えても・・・・・・)
シンデレラの視線の先で、謎の相手が馬を止めた。
そして、ゆっくりと馬を降りる。落馬ではなく、自分の意志で。
こちらとの距離はおよそ二〇メートルだ。
大きな白い布をかぶった相手から、シンデレラは視線を外さない。その状態でテテルに小声で聞いてみる。
「あれって、テテルの知り合いとか? まさか、五人目の魔女?」
しかし、そうではなく、
「私の予想が正しければ、いや、たぶん正しい。私たちの先生の一人だよ」
テテル、クー、スティンクル、リプリスはそれぞれ担任が違うので、先生は四人いるという。
先ほど馬車の中でテテルは瞬時に、次のような仮説を立てたらしい。
四人の先生がそれぞれ、お城までの道のどこかで、待ち伏せしているのではないか。
で、各先生の課題(おそらくは模擬戦闘)をクリアすれば、先に進むことができるのではないか。
すぐにシンデレラはピンときた。あのタイミングで、テテルが馬車から飛び降りた理由。
この相手の気配を察知したからこそ、彼女はすぐに動いたのだ。まるで「早い者勝ち」のように。
「つまり、この先生が『最弱』ってことだよね?」
シンデレラはテテルに囁く。
ところが、返ってきた答えは短い沈黙だった。
そのあとでテテルがつぶやく。
「逆だよ。四人の中で『最強』」
「は?」
ちょっと待って。それって最悪なんじゃ・・・・・・。テテルが負けたら、ここで私は脱落ってこと?
遠のくお城、さらば舞踏会。そんな展開は嫌すぎる!
(テテルって、意外と脳筋おバカさん? 強い相手にわくわくしちゃうタイプ? そんな風には見えないのに・・・・・・)
シンデレラが困惑する中、謎の相手が白い布を脱ぎ捨てた。
背の高い男が立っている。
黒い鎧を着た美形の男だ。鎧の各所には、青い宝石が埋め込まれている。
夜の風にはためくマント、その内側は白で外側が黒だ。テテルやリプリスと同じ。
シンデレラは思った。
(まずいな。雰囲気だけで、すでに強い)
とりあえず、この人物が「見かけ倒し」であることを祈ってみる。
男がテテルに告げてきた。
「俺がここにいる。その意味がわかるな?」
「これも課題の一環。先生を倒せば先に進める。そういうことですよね、ヴァンプラッシュ先生」
シンデレラは耳で反応した。この男性、「ヴァンプラッシュ先生」というらしい。
(やばいな。強い人物というのはだいたい、名前が長い傾向にあるような。しかも、テテルはこの人を『最強』だと言ってるし・・・・・・)
遠のくお城、さらば舞踏会。このフレーズが悲愴なメロディーと共に、頭の中で繰り返される。
「ヴァンプラッシュ先生、それでは始めましょうか」
テテルが黒い木刀を両手で構えた。




