Σ(゜д゜lll) 私、普通の民間人
シンデレラは驚愕していた。何が起こっているのか、理解が追いつかない。
大きな車体が、目の前を一気に駆け抜けていく。クー以外の五人がこちらをふり返っていた。全員が驚きの表情をしている。
ただし、その直後にリプリスは何かに気づいたらしい。「しまった!」という顔になったのを、シンデレラは見逃さなかった。
リプリスにとって、この展開は不都合なのか?
それとも、あの表情は別の意味?
最後の最後にキナコが叫ぶ。
「シンディちゃん、よくわからないけど、先に行って待ってるからー!」
超巨大馬車が駆け抜けたあと、正面の視界が一変した。
一〇〇メートル先には山賊たちがいる。彼らは馬に乗っているので、この距離は安全圏ではない。
山賊たちはまだ十人以上も残っている。スティンクルたちの攻撃が残念なのか、それとも山賊たちが優秀なのか。半分くらいしか減っていない。
山賊たちは互いに顔を見合わせている。一方的に飛び道具で攻撃されていたところに、いきなり超巨大馬車から二人が飛び降りてきたのだ。驚くのも無理もない。
が、この間にも彼らの馬は前進している。あと八〇メートルだ。
そこでシンデレラは急に、体が軽くなったように感じた。謎の浮遊感によって、落下速度がゆっくりになる。
たぶんテテルの魔法だ。これで「着地に失敗、足を骨折」という可能性はなくなった。そう思いたい。
今すぐテテルに対して矢継ぎ早に質問したいけれど、最優先で確認したいことは一つだ。
「私、普通の民間人なんだけど、そこら辺わかってる?」
いくらか戦いの心得があるキナコやフォーテシアとは、まるで違うのだ。彼女たちは例外。
「安心して。戦力としては、最初から考えていない。邪魔さえしないでくれれば、それでいいから」
つまり、この山賊たちはテテル一人で倒してくれる、ということ。彼女が爪楊枝を投げて、次々と落馬させていくのを、自分はただ眺めていればいいわけか。
シンデレラは一安心すると、別のことを考え始める。
(ここでテテルの邪魔をしたら、どうなるのかな?)
そんなことではなく、
(あのタイミングで馬車から飛び降りたのは、何でだろう?)
そこでテテルがつぶやく。
「しまったかも」
「どうしたの?」
「爪楊枝の本数が足りない。敵の方が多い」
「!?」
その声が聞こえたわけではないだろうが、
「相手はかわいい女の子たちだ。絶対に怪我をさせるなよ。そこだけは注意しつつ、俺さま山賊団、全員突撃ー! 俺に続けー!」
山賊たちのリーダーらしき男が明るく叫んでいる。
シンデレラは相手の姿を、奇妙に思った。
あの男、貴族にでもあこがれているのだろうか。水色の服の上に銀のブレストアーマー。そして、白いマントもつけている。普通の山賊が好むような格好ではない。
それに、他の山賊たちの何人か、どこかで見覚えがあるような・・・・・・。
(ひょっとして、傭兵ギルドの人たち?)
去年、家の畑に実った大量のカボチャ、その収穫を手伝ってもらった時に、似たような顔を見た気がする。
そんな考えが頭に浮かんだのと同時に、シンデレラはふんわり着地した。良かった、足の骨は無事だ。
でも、山賊たちとの距離は、もう五〇メートルもない。
かなりのピンチなのに、テテルが落ち着いた声で言う。
「爪楊枝の本数が足りない、と言ったのは冗談。ちゃんと足りてる」
そういう冗談は、時と場所を選んで欲しい。魔女め。
ところが、シンデレラにとって思いがけないことが起こる。
テテルが爪楊枝を構えようとしないのだ。
迫りくる山賊たち。あと三〇メートル。
すると、不思議なことが起こった。
山賊たちが次々と落馬し始めたのだ。




