Σ(゜д゜lll) ある男の計画
道から少し離れた場所で、男は腕時計を見ながら考え込んでいた。
(こっちの道を選んだのは失敗だったかも)
この国のお城につながる道は二本ある。
こっちは裏道だ。夜になると人通りが少なく、治安が一気に悪くなる。
なので、舞踏会の参加者たちの多くは、もう片方の道を使うだろう。
(あっちで待ち伏せした方が良かったかな)
男の目的はお城に行くことだ。今夜の舞踏会、必ず参加してやる。
しかし、馬車が一台も通らないのでは、計画が先に進まない。お城に向かう馬車を襲って、舞踏会の『招待状』を手に入れる計画だ。『招待状』がないと、お城で門前払いを食らうことになる。
男は横目で、同行者たちの姿を見た。この国の傭兵ギルドで雇った連中だ。「山賊のふりをして馬車を襲う」というのは、先に伝えてある。
また、「馬車に乗っている人たちに怪我をさせないように」とも伝えていた。そういうのは自分の性分じゃない。『招待状』さえ譲ってくれれば、それでいいのだ。
今日の昼間に傭兵ギルドで、今回の襲撃メンバーを募集した。
で、前金を渡して、山賊っぽい格好をしてくるように言ったのだが・・・・・・。
(どう見ても、ハロウィンの仮装だな)
ほぼ全員が軽く変装している。自分の正体を悟られないように、顔はそれなりにメイクなどをしているが、鎧の上から薄いコスプレ衣装を羽織っただけ、という者がほとんどだ。中には、白い布をかぶっただけ、という者までいる。
とはいえ、この男自身も、「いかにも山賊」という格好はしていない。
水色の服の上に銀のブレストアーマー。そして、白いマントだ。
左右に角のついた兜を、先ほどまではかぶっていたが、今は外して地面に置いていた。この兜は重すぎる。持ち帰るのも面倒だし、ここに捨てていこう。
(動きやすさを優先するなら、あのくらいの仮装の方が合理的なのか)
傭兵ギルドは、悪くない人選をしてくれたようだ。思っていた以上に、礼儀正しい者が多いし。
そんなことを考えていると、白い布をかぶった奴が近づいてきた。
そいつが無言で地面にしゃがみ込む。
その前方の地面がいきなり、円形に発光し始めた。かと思ったら、魔法陣が出現する。
魔法陣の中から、何かがせり上がってきた。
それが何かはすぐにわかった。「自動販売機」だ。初めて見る魔法に、男は感心する。
ちょうど喉が渇いていたことだし、
「みんな、一本ずつ飲んでくれ。俺のおごりだ」
自動販売機に紙幣を投入する。男は炭酸飲料を選んだ。
それを飲みながら時間をつぶしていると、またもや白い布をかぶった奴が近づいてくる。
そして、お城とは反対の方角を、無言で指差した。
男はそちらに顔を向ける。
道の向こう側から何かが近づいてくる、そんな気配があった。ここからだと岩壁に阻まれていて、その姿を見ることはできない。
だが、男はにんまりした。やっと馬車が来たらしい。
この場所で待ち伏せしようと決めたのには、ちゃんと理由があった。
大きなカーブを曲がった直後なので、馬車は必ずスピードを落とす。
また、道の片側に大きな岩壁があり、自分たちが潜んでいるのを、ここにやって来る相手は見ることができない。
馬車を奇襲する上で、絶好の条件がそろっているのだ。
「みんな、手はず通りに頼む。この奇襲に成功したら、報酬は約束の二割増しを払うぞ」
男は黒い覆面をしてから、馬に飛び乗る。傭兵たちも同様だ。
「俺さま山賊団、突撃ー!」
二〇頭以上の馬たちが一斉に駆け出した。




