Σ(゜д゜lll) ぐるぐる巻き巻き
リプリスとの話がまとまると、シンデレラはキナコの方に目をやった。
二〇メートルくらい離れた場所に、キナコとクーがいる。
ツインテールのOLさんは、まだ目を覚ましていないようだ。キナコの『走り一本背負い投げ・みたらし』、あれを食らったあとに失神してしまった。
(あっちはもう少しかかりそうだな)
なので、シンデレラは別の方向に歩いていく。テテルとリプリスもついてきた。
若葉色のセーラー服を着た女の子、フォーテシアが兵士たちを一人ずつ、縄でぐるぐる巻きにしている。
兵士たちは気絶しているので、抵抗はない。武器もすべて回収済みだ。カボチャの人型とカボチャのブルドーザーで、三〇人近い兵士たちに勝ってしまった。これがスティンクル、彼女の実力。
気絶していないのは指揮官だけだ。他の兵士たちよりも高級な鎧を着ている。フォーテシアの手で真っ先に縛られて、今は地面の上に正座していた。
その前にはスティンクルがいる。
彼女は指揮官の顔のすぐ前で、
「あっぷっぷー♪」
なかなか楽しそうなことをしている。あれはおそらく「にらめっこ」。
シンデレラの位置からだと、スティンクルの顔は見えないが、指揮官は必死にこらえているようだ。たぶん負けると、罰ゲームでもあるのだろう。
「スティンクル、その人と少しお話させてもらってもいい?」
リプリスが声をかけると、
「えー、今いいところだったのにー」
こちらをふり向いた時、スティンクルの顔は「にらめっこ仕様」を解除していた。
直後に指揮官が吹き出す。ここまでこらえていたが、気が緩んだらしい。
「あー、笑うのがもう少し早かったら、罰ゲームだったのにー」
その声はそこまで残念そうではない。
シンデレラたちの方に駆け寄ってくるスティンクル。
彼女の頭をなでなでしながら、リプリスが指揮官に言う。
「あなたにお願いがあります。私たちのことは黙っていてください。部下の方々にも、それを徹底させてください」
口調は穏やかだが、「異論は認めない」という芯の強さを感じる。
「だから、あなたたちの雇い主には、こんな風に報告してください」
そこでリプリスがスティンクルに尋ねる。
「畑の檻からは、どうやって脱出したの?」
「もちろん、こうだよ。こーんな感じ」
スティンクルが両手を胸の前に構えてから、一気に左右へと広げた。
そのジェスチャーで、シンデレラは理解する。鍵屋さん泣かせの、なかなかパワフルな脱出法だ。
リプリスは「ふむふむ」とうなずいてから、
「じゃあ、おなかのすいた野生のゴリラ、その群れに襲われたということで」
それを聞いて、シンデレラはハッとする。
「その案、待ったー!」
急いで止めに入る。ゴリラはまずい。非常にまずい。
ここまでの道中で自分たちは、ゴリラの着ぐるみ姿を警官に目撃されているのだ。
あの時の会話が頭に甦ってくる。
――お城に呼ばれました。舞踏会の余興らしいです。
――じゃないと、こんな格好で夜に出歩かないですよ。
あの警官は「おだんご屋さん」の常連だ。シンデレラやキナコのことを知っている。
そして、別れてからそれほど経っていない時間、それほど離れていないカボチャ畑が、「ゴリラの群れに襲われた」となったら・・・・・・。
「ゴリラはダメ! 絶対反対! ゴリラは人間の友だち! 愛すべき生き物! ウホウホ、ウホウホ、ウホホホホッ!」
この熱意が通じたのか、
「・・・・・・ゴリラじゃなくて、山賊にしましょうか」
「ウッホ♪」
そこにフォーテシアも加わる。兵士たち全員の拘束が完了したらしい。
拘束作業をしながらも、ここまでの話は聞いていたようで、
「こうするのはどう?」
山賊がカボチャ畑を襲ったのは、その畑を所有する貴族への警告。次は館を襲うぞ。
それなら貴族は、ここにいる兵士たちを解雇にはしづらい。山賊の襲撃を考えれば、館を守る兵士は、一人でも多い方がいいのだ。少なくとも、安心できる戦力が整うまでは、彼らを雇い続けるだろう。大量のカボチャを盗まれるという、今回の失態には目をつぶる可能性が高い。
さっそくリプリスが魔法で、「山賊からの脅迫状」を偽造し始めた。宙に浮いた紙の上に、かろうじて判読できるくらいの汚い文字が並んでいく。誤字や脱字も多い。
その様子をシンデレラはじっと見ていた。こんな魔法もあるのか。
(ひょっとして、お金も偽造できるんじゃ・・・・・・)
しかし、それにテテルやリプリスが気づかないだろうか。
いや、ないな。お金を偽造できるのなら、すでに使っているはず。
リプリスが「山賊からの脅迫状」を完成させる。
それを指揮官が着ている鎧の隙間に差し込んだ。
そのあといきなり、
「えいっ!」
大ジャンプしてからの「急降下かかと落とし」!
気絶した指揮官を見て、シンデレラは思った。リプリスは脚部に「純白の防具」をつけているので、今のはなかなか痛そうだ。
本人も「やりすぎちゃったかも」と思ったらしく、慌てて指揮官の生死を確認している。
・・・・・・どうやら問題ないようだ。相手は気絶しているけれど、リプリスが小声で、「ごめんなさい、ごめんなさい」と謝っている。
この間に、シンデレラはフォーテシアから次の話を聞いた。
彼女が言うには、気絶している兵士たちの何人かに対して、わざと縄を緩めておいたらしい。全員が縛られた状態で、野生動物や山賊にでも襲われたら、大変だからだ。彼らが目を覚ましたら、自分のはもちろん、仲間たちの縄も解くだろう、ということだった。
「そうなるまで、あと十五分くらいだと思う」
だったら、その前にここを立ち去らなければ。
(あっちはどうなっているかな)
シンデレラが再びキナコとクーの方を見ると、ツインテールのOLさんがようやく意識を回復したらしい。あっちでもキナコが、「ごめんなさい、ごめんなさい」と謝っている。
OLさんの様子からして、すぐに出発しても問題なさそうだ。
シンデレラが見ている前で、テテルたち四人が魔法を使う。カボチャを乗り物に変えた。
それに乗り込んで、いざ、お城に向かって出発だ。
ところが、シンデレラたちはまだ知らない。
この道の先に、怪しげな一団が潜んでいることを・・・・・・。




