Σ(゜д゜lll) お金です
さて、話はシンデレラの方に戻る。
「お・か・ね?」
シンデレラが聞き返すと、
「そう、お金です」
リプリスが笑顔で答えた。
「さっきテテルが言ったように、今回のミッション、『私たちの一人だけがクリアできる』という競争ではありません。『四人全員がクリアできる』方法が存在します」
というのも、あの契約書で、最も注目すべきなのは、「記載された金額を学校に納める」ことだ。
他にも見落としてはいけないのが、「それぞれが指定された相方――テテルの場合はシンデレラ――と契約する」こと。そうした上で、「その相方をお城に連れて行き、今夜の舞踏会に参加させる」ことだ。
あの契約書は非常にまぎらわしい書き方をしているので、誤解しやすいが、「王子さまとの結婚」は、あくまで「手段の一つ」として紹介しているにすぎない。
「別に王子さまと結婚しなくても、契約書に記された金額さえ学校に納めれば、今回のミッションはクリアできます」
つまり、お金が重要。手段を選ばなければ、たとえば銀行強盗という方法もある。
ただし、その場合であっても、それぞれの相方をお城に連れて行かなければならない。
なので、「王子さまとの結婚」を目指すのが、まずは基本になるだろう。
シンデレラたちの誰かが王子さまと結婚すれば、その時点でミッションはクリアだ。お金はあとからついてくる。この場合に限り、それが通用するのだ。
また、王子さまと結婚できない場合でも、「お城に連れて行く」のを達成済みなら、そこから他の手段に切り替えればいい。たとえばお城から街の賭博場に移動して、そこで大儲けできれば、ミッションをクリアだ。
ただし、この場合には「タイムリミット」が存在する。「王子さまが結婚相手を決めた時」に「必要な金額を用意」できていなければ、テテルたち四人は『退学』になってしまう。
要するに、今回のミッションは「お金」で決まる。テテルたち魔女にとって、自分の相方が王子さまと結婚できなくても、「お金」さえあればいいのだ。
たとえばの話、シンデレラが王子さまと結婚した場合、テテルの分だけでなく、クー、スティンクル、リプリスの分まで払うことにすれば、四人全員がクリアできるという。
キナコやフォーテシアが結婚する場合も同様だ。このミッションは、テテルたち四人の内、『一人だけがクリアできる』という競争ではない。
それでリプリスは、共闘しようと持ちかけてきているのだ。
どのみちお城へは行くんだし、基本的には王子さまとの結婚を狙う。シンデレラたち四人の誰かが結婚できるように、テテルたち四人でサポートするのだ。仲間同士による足の引っ張り合いはしない。
また、シンデレラたち四人全員、王子さまと結婚するのが無理そうなら、すぐさま別の作戦に切り替える。他の方法で必要な金額を用意するのだ。この場合もテテルたち四人は共闘する。
(なるほど)
シンデレラはテテルと相談した。
「私の考えが正しければ」
テテルもリプリスと同意見だという。契約書の話は本当らしい。
「もっと早く気づいていれば良かった。でも、最終的にはシンデレラの意見を尊重する」
テテルに言われて、シンデレラは考えた。
リプリスの提案を受け入れた場合、「王子さまと結婚する可能性」が一番ありそうな者を、四人の魔女がサポートするのか。
その一人は自分かもしれないし、そうじゃないかもしれない・・・・・・。
そこで、あるアイデアを閃いた。
「じゃあ、みんなで共闘しよう」
ただし、一つ条件をつけたい。
今夜の王子さま争奪戦において、最初は私を優遇して♪
そんなことを言うつもりはなかった。自分以外が王子さまと結婚することになっても、笑顔で受け入れようと、今は思っている。
そもそも、お城の舞踏会に行けること自体が奇跡だ。王子さまと結婚できなくても、一生の思い出になる。
自分がつけたい条件は、これだ。
テテルたち四人が必要としている金額、それを目標にはしない。もっともっと上を目指す。
そんな大金で何をするのかというと、
「テテルたちの学校を買っちゃおう」
そうすれば、自分は学校の共同所有者だ。共同所有者の特権ってことで、便利な魔法を無料で教えてもらい放題♪
ところが、テテルがジト目で、
「さすがに却下。現実的に考えて、買えるとは思えないし、たとえ買えたとしても、学校の評判が確実に下がる。それは嫌だ」
「そんな冷たいことを言わずに、できそうだったらでいいからさぁ」
「うーん、考えとく。でも、これは私たち二人だけの秘密ってことで」
意見はまとまった。
シンデレラはリプリスに、次のように伝える。目標とする金額はきっちり決めずに、少しぼかして「テテルたち四人全員が『退学』にならない金額」にしよう。
「じゃないと、もしも追加の諸経費が必要になった時、ものすごーく悲しいことになるかも・・・・・・。その時になって、やる? 誰が『退学』になるのかを決めるジャンケン。もしくは、ダーツ」
この修正案をリプリスが受け入れたので、シンデレラはほくそ笑む。
しめしめ。もしも本当に学校を買うことができたら、テテルたち四人の『退学』はもちろん無効だし、この選択はたぶん間違っていない。




