Σ(゜д゜lll) コーヒーブレイク(後編)
「校長先生は大変ご立腹だ」
ヴァンプラッシュ先生が淡々と告げる。
「待ってください。私は最初、止めようとしました。そもそも、あの銅像を『たこ焼き』にしようと言い出したのはリプリスで」
ウソではない。自分は「大きなたこ焼き」ではなく、「大きなトマト」にしようと主張したのだ。
「あと、『からしマヨネーズ』をかけたのもリプリスです」
「そうだ。俺も北の校舎から見ていたので知っている。『青のり』をかけたのはクーだし、『かつお節』をかけたのはスティンクルだ。で、『ソース』については、あえて言うまい」
テテルもはっきりと思い出していた。すべて事実である。
「その上で聞こう。あの四人の中で誰が一番、たこ焼きにダーツを刺しまくっていた? そうそう、他の三人とは違って、君だけは爪楊枝だったな」
「・・・・・・」
「そういうことだ。自分の罪を素直に認めるとは偉いぞ、テテル。あのイタズラでも、実に見事なコントロールだった」
そこまで言ってから、ヴァンプラッシュ先生がため息をつく。
「校長先生は本当にご立腹だ。もしもテテルが次に大きなイタズラをしたら、『退学』処分にすると言っていた」
そして、今は長旅の疲れを癒すために、眠りについているらしい。
「俺が思うに、あと一年は目を覚まさないだろう」
「だったら、別に『退学』にしなくても。その前に私は卒業するわけだし・・・・・・」
「ああ、その通りだ。で、校長先生は目覚めてすぐに『不正』に気づいて、君の卒業は取り消されるだろうな。そうなりたいか?」
「・・・・・・」
ヴァンプラッシュ先生は立ち上がると、本棚の方へと歩いていく。
「俺に一つ考えがある」
そこで咳払いをすると、
「『退学』処分を取り消したいかー!」
右の拳を突き上げて叫ぶ先生。
授業中には見せたことのない姿に、テテルは警戒した。
すると、ヴァンプラッシュ先生がもう一度、
「『退学』処分を取り消したいかー!」
テテルは少し戸惑ったものの、この流れにつき合うことにした。でないと、本当に『退学』になる。
「おー」
自分も右の拳を突き上げる。
ヴァンプラッシュ先生がさらに、
「卒業式に参加したいかー!」
「おー!」
「そのために、ある課題に挑戦したいかー!」
この時、ヴァンプラッシュ先生の左肘が本棚に当たる。
一冊の本が床に落下した。それをテテルは思わず見てしまう。
題名は『教育には、ユーモアが必要。楽しくない先生に、迷える子羊はついてこない』。
いつも冷静なヴァンプラッシュ先生らしからぬ、お茶目な言動の原因は、これか。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
部屋の中に流れる短い沈黙。
そのあとで、そそくさと本を拾うヴァンプラッシュ先生。
何事もなかったように、
「そういうわけで、『退学』を取り消すために、ある課題に挑戦してもらう」
校長先生が眠りにつく前に、そのような条件を認めてもらったのだとか。もしもテテルが次に大きなイタズラをしても、この水準の課題をクリアできれば、『退学』は取り消し。胸を張って、この学校を卒業できる。
ヴァンプラッシュ先生が一枚の写真を見せてきた。
女の子の写真だ。見覚えのある顔ではない。幸薄そうな顔をしていると、テテルは個人的に思った。




