Σ(゜д゜lll) この学校の『伝説』に(その五)
止めるのはもう間に合わない。テテルたち三人は急いで目をつぶり、さらに手でまぶたを覆った。
スティンクルが叫んでいる。
「『光収束』!」
ウルフェニックス先生の必殺技、『光収束』だ。あの技は攻撃を放つ直前に、強烈な閃光を放つ。それはスティンクルの「まねっこ技」でも変わらない。
手でまぶたを覆っていても、テテルたちにはわかる。膨大な光が今、周囲を駆け抜けていった。
だが、適切な対応をしていたので、自分たちに被害はない。
これがウルフェニックス先生の『光収束』だったら、三人とも目を押さえて悲鳴を上げながら、地面をのたうち回っていただろう。
テテルたち三人は、まぶたから手を離して目を開けた。
予想していた通り、流星がさらに大きくなっている。スティンクルの『光収束』と合体したらしい。
ゾーンビルド先生は大ピンチだ。排出する蒸気がどす黒くなっている。左腕の全体を黄色い火花が激しく走り回っていた。
どう見ても、限界が近い。
そんな様子に勝利を確信したのか、
「楽しかった、運動会♪」
思いがけないスティンクルの言葉に、テテルたち三人は驚いた。
「楽しかった、修学旅行♪」
スティンクルによる「卒業式ごっこ」だ。スクラップ以上がほぼ確定のゾーンビルド先生に対して、餞別のつもりらしい。先生はたぶん卒業式を欠席することになるだろうから、教え子からの疑似体験サービス。
さすがに、他の三人はスティンクルに続いて、「楽しかった、修学旅行♪」と言う気にはなれなかった。
こういうのは、負けフラグになりかねない。というか、すでに色々とフラグを立てている気も・・・・・・。
クーが急いでやめさせる。
その直後だ。
「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
限界まで追い詰められたゾーンビルド先生が、本気で吠える。自分の左腕に魔力を急速集中、いや、「超速圧縮」させた。
しかし、それでもまだ流星の勢いの方が上。
なのに、テテルたち四人ははっきりと見た。ゾーンビルド先生の口元が笑ったのだ。
「お前たち、やるな」
そう言うと、先生は左手の指をすべて、流星にめり込ませた。指部分の金属が高温のために、この一瞬で真っ赤に変わる。
「だが、まだまだだ!」
そこから、くるり! 自分の体の向きを素早く、横に九〇度回転させる。こうすることで、回転の勢いも利用して、流星の向きを力ずくで変えた!
そして、タイミング良く流星を離す。
はるか彼方へと、飛んでいく流星。
しかし、やはり限界だったらしい。
ゾーンビルド先生が残念そうにつぶやく。
「強制切断」
先生の左肩で小さな爆発が起こり、左腕が外れた。
それをさらに、サッカーボールキックで遠くの空に飛ばす先生。
次の瞬間、左腕が大爆発した。
あの流星を受け止めるのは無理。そう判断したゾーンビルド先生は、別プランに切り替えた。自分の左腕を犠牲にしてでも、流星の向きを変える方法を選ぶ。結果は大成功だ。
まさかの事態に、テテルたち四人は困惑するしかなかった。なんて力業だ。
ゾーンビルド先生の後方にある大量の蒸気が晴れていく。
時計台は無事だ。それを確認した瞬間、クーがいきなり走り出した。
他の三人もハッとして、それぞれ別々の方向へ全力疾走する。
とりあえず、今は逃げた方がいい。ばらばらに逃げれば、ゾーンビルド先生に捕まるのは、一人だけで済む。
しかし、その一分後だ。
草原の中、テテルの数メートル前には、背の高い男が立っていた。
黒い鎧を着た美形の男だ。鎧の各所には、青い宝石が埋め込まれている。
深夜の風にはためくマント、その内側は白で外側が黒だ。テテルやリプリスと同じ。というか、二人がまねをしたのだ。
鎧の男がテテルに告げてくる。
「こういうことは感心できない」
男は細い鎖のついた懐中時計を取り出した。ふたを開くと、中の文字盤をテテルに見せてくる。
「これが現在の時刻だ。この意味がわかるな?」
授業中とはまったく違う冷たい雰囲気に、テテルは震える。
「【ヴァンプラッシュ】先生・・・・・・」
テテルたち四人の担任の中で、最強の存在だ。




