Σ(゜д゜lll) この学校の『伝説』に(その三)
ワインボトルの栓を抜くような機械で、クーが最後の穴を掘り終える。
テテルたちは四つの穴に深く、四本の『怒り花火』を差し込んだ。
花火がしっかり固定されているのを全員で確認してから、それぞれの花火の導火線の先を、一本に束ねる。
このあと、四人は百メートルほど移動した。ここからなら、花火と時計台の両方を視界に収めることができる。自分たちの『伝説』達成を見届ける好立地だ。
花火に点火するのは、テテルの担当。
一本の爪楊枝を取り出すと、その先端に『魔法の火』を灯した。
そして、よく狙って爪楊枝を投げる。束ねられた導火線に、正確に命中した。
「そのコントロールが、ぼくにあったら・・・・・・」
うらやましそうにクーがつぶやく。
数秒後、四本の花火が火の玉を吐き出した。
意外なことに、スティンクルの火の玉が一番小さく、テテルの火の玉が一番大きい。
リプリスは密かに思う。
比較的お気楽なスティンクルと、ストレスを溜めやすそうなテテル。そんな「二人の性格の差」が、火の玉のサイズに現れたのかも。
スティンクルの花火の威力は誤算だったが、テテルの花火の威力も誤算だった。
悪い誤算と良い誤算。その差し引きはおそらく、プラスに傾いている。結果オーライ。
クーとスティンクルは、「あれが代用品?」と疑ったくらいだ。
しかし、リプリスは最後に全員で確認した時、テテルの花火の「製造番号」に気づいていた。あの番号には「製造年」が含まれている。テテルの花火は製造されて、まだ一年も経っていない。テテルの言っていることはたぶん本当だ。
それで、あれほどの威力とは・・・・・・。さすが、テテル。
発射された四つの火の玉は、高速で飛行しながら一つに合体した。流星のような外見になって、時計台の文字盤へと突き進んでいく。
テテルたち四人は目を輝かせた。この威力なら、あの時計台を破壊できるに違いない。
というか、少しやり過ぎちゃうかも。あの先ってたしか、先生たちの研究施設だ。もしもの時はごめんね、先生たち♪ ああ、自分たちの『伝説』に、さらなる箔がついてしまう♪
だが、流星の進路上に突然、一つの人影が飛び出してきた。
その男の全身は、銀色の金属スーツで覆われている。特撮ヒーローのような金属スーツだ。
テテルたち四人は青ざめる。
やばい、先生の一人だ!
テテルたち四人はそれぞれクラスが違うので、担任が違っている。
そして、四人の担任の中で「最高の防御力」を持つのが、あの男だ。『メタルゾンビ』の【ゾーンビルド】先生。
簡単に言えば、「ほぼ全身が金属でできたゾンビ」である。「最高の防御力」を誇る上に、脳を破壊されない限り、専用の保健室で何度でも「修理」できるらしい。
しかし、いくらゾーンビルド先生でも、自分たちの『怒り花火』の威力なら・・・・・・。
あるぞ、卒業式までスクラップ状態。四人は少しだけ期待する。
ゾーンビルド先生が流星に対して、片手を前に突き出した。迎撃の構えをとる。
「目標捕捉、攻撃値計測」
先生の両目を覆っているゴーグルに、さまざまな色が点滅している。
「緊急警告、現状防御不可能」
そう独り言をつぶやいたあとでゾーンビルド先生は、
「お前たち、やるな」
この発言に四人は喜んだ。自分たちの怒りの結晶は、この学校における「最高の防御力」をも上回るらしい。
時計台の破壊を阻止されたとしても、ゾーンビルド先生をスクラップにしたとなれば、それも偉大な『伝説』だ。これまでの先輩たちが誰一人成し遂げていない、ものすごい快挙である。
学年末の模擬戦闘試験で、全力のスティンクルがゾーンビルド先生にほんの少しの「かすり傷」を負わせただけで、学校中が大騒ぎになったくらいなのだ。
「方針変更、左腕全開」
ゾーンビルド先生の左腕の周囲に、複数の魔法陣が出現した。
どれも防御系の魔法陣のようだが、どうする気だ? テテルたち四人は興味しんしんに見つめる。
その視線の先で、ゾーンビルド先生が流星と激突した。




