Σ(゜д゜lll) この学校の『伝説』に(その二)
テテルたちには秘策があった。入学した日から今日までずっと、時計台を破壊するための準備を続けてきたのだ。
あの日、入学式のあとで、テテル、クー、スティンクル、リプリスの四人は、この丘の上で出会った。
特に言葉は必要なかった。すぐに直感した。こいつらは自分と同じことを考えている。入学初日から、「卒業前のイタズラ」のために下見をしているとは、見所があるぞ。
そんな感じで意気投合した四人はその足で、ある『魔法道具』を買いにいった。
「みんな、ちゃんと持ってきたよね?」
リプリスの言葉に、クーとスティンクルが棒状の物体を取り出す。虹色のテープがぐるぐるに巻かれていた。もちろん、リプリスも同じ物を持ってきている。
これこそが、時計台を破壊するための切り札だ。『怒り花火』である。
この花火、初期状態の威力は大したことがない。売っている場所さえ知っていれば、学生でも買うことができるような品物だ。秘密兵器と呼ぶにはほど遠い。
しかし、この『怒り花火』は成長させることが可能なのだ。学生と一緒で、時間をかければ成長する。
四人はそれぞれの『怒り花火』に、この学校で頭にくることがあるたびに、その時の怒りの感情を蓄積させていった。花火を握っていれば、怒りの感情の一部が勝手に蓄積される。
そんなことを根気強く続けてきたのも、今日のためだ。きっと凶悪な威力に育っていることだろう。
これで、あの時計台を破壊する。
そして、自分たちは最高の『伝説』を打ち立てるのだ。難攻不落の『伝説』を。
クー、スティンクル、リプリスが『怒り花火』を見せたのに対して、テテルだけが違った。
「実は・・・・・・」
正直に打ち明ける。
「三か月前から、私の『怒り花火』が行方不明で」
そう言ってテテルは、自分の『怒り花火』を取り出した。ないことに気づいてから、慌てて用意した「代用品」だ。
怒りの感情を蓄積させた期間が、三か月と短いので、威力は他の三人よりも落ちることになるだろう。
それを聞いて、スティンクルが笑い出した。
「ふっふっふっふっ♪ だったら、どう考えても、私の花火が主力ってことになっちゃうね。さらば、好敵手。予想していたよりも少し遅かったけれど、ついに来ちゃったかな、私の黄金時代。『スティンクル先輩の花火が一番強力で、華麗に時計台をぶっ壊しました』って、最高の『伝説』になっちゃう♪」
そのあとわざとらしく咳払いをすると、両目をキラキラさせて、
「この先、私だけ偉くなっちゃっても、みんなのことは忘れないよ・・・・・・うにがんばるから♪」
「あー、はいはい」
クーはスティンクルをあしらうと、
「テテルの見立てだと、どんな感じ? この四本の『怒り花火』で、あの時計台を破壊できると思う?」
入学当時から計画していたのだ。準備にかかった年月を考えると、今さら中止にするのは気が進まない。
しかし、どうがんばっても無理なようなら、
「ぼくは『勇気ある決断』も必要だと思う」
時計台の破壊に大失敗した結果、「昔、ものすごいバカ四人組がいてね」と語り継がれるよりは、ましだろう。成功の可能性がゼロなら、挑戦すべきではない。この『怒り花火』は、他のイタズラにも使えるのだから。
「私の予想が正しければ・・・・・・」
テテルの視線が、仲間の一人に飛ぶ。
「スティンクルの花火、その威力次第だと思う」
この四人の中で、魔力の量は彼女がぶっちぎりの一番だ。
ただし、魔力の量はすごいが、魔力の制御は大雑把。
まさに「質より量」で勝負するタイプ。野菜を「馬車」にする授業で「ブルドーザー」にしたのは、この学年で彼女だけだ。
頭も少しゆるーい感じ。本来なら余裕で『学年首席』になる実力を持っていながら、『学年四位』で満足している。
とはいえ、怒りの感情を花火に蓄積させる時、本人の魔力が強いほど、威力の底上げができるのだ。魔力の量に秀でるスティンクルが、主力になる可能性は非常に高い。
テテルの花火、その威力がほとんど期待できない以上、今回のイタズラの成否は、スティンクルの花火にかかっている。
テテルの見立てに対して、リプリスも同意見だ。
「頼りにしているからね」
スティンクルの頭をなでなでするリプリス。
「ふっふっふっふっ♪ 任せておきなさい。私特製の最強花火は、自慢じゃないけど、ちょっとすごいかもよ。さぁさぁ、この美少女四人で『伝説』を打ち立てちゃおう♪」
やると決まった以上、あまり時間をかけてはまずい。細心の注意を払って寮を抜け出してきたとはいえ、自分たちの不在が先生たちにばれるのは、時間の問題だろう。
その前に、このイタズラを決行しなければ。




