Σ(゜д゜lll) この世界には魔女がいる
太陽が地平線に沈もうとしている中、シンデレラは家への帰り道を急いでいた。
頭の中を不安がよぎる。まだ魔女は家にいるだろうか。
(待つのに飽きて、いなくなっているかも・・・・・・)
で、玄関の前には、「呪いの言葉を書いたメモ」と「毒リンゴ」が置いてあるとか。
そんな想像をしてしまい、とにかく走った。全力疾走だ。
そのかいあってか、シンデレラが帰宅した時、まだ魔女は家の中にいた。
謎のゲームに夢中になっている。
家庭用ゲーム機や携帯ゲーム機をほったらかしにしたまま、トマトに爪楊枝を刺しまくっていた。トマトだったそれは今や、「タワシ」のようになっている。
外見だけなら美少女で通用しそうなのに、さすが魔女だ。爪楊枝を刺すたびに、小声で「よしよし♪」と口元が緩んでいる。次はどこに刺そうかと、爪楊枝を構えている時の表情もなかなかだ。
彼女との出会いを思い出して、シンデレラは苦笑する。
今から二時間前だ。
玄関のドアを誰かが叩いたので、シンデレラはソファーの上から、
「どなたですかー?」
すると返ってきたのは、
「魔女です」
「わかりました。だったら、留守でーす」
新手の詐欺に対して、常識的な対応をしたつもりなのに、「ドアを叩く音」が「ドアを蹴飛ばす音」へと変わった。
「魔女です。あなたを助けにきました」
シンデレラは「おせんべい」をかじりながら、そっけなく答える。
「ご苦労さまです。今ちょっと手が離せないので、私の銀行口座に一億ほど振り込んでおいてください。それで助けになります。あなたのお顔は一生忘れません、感謝」
ひまな時間ならともかく、今は違う。ロボット掃除機がちゃんと仕事をしているのか、それをチェックするのに忙しいのだ。
この家は広いので、ロボット掃除機が十台同時に動いている。ソファーの上で「おせんべい」をかじっているからといって、ひまなわけではないのだ。
ほら、ちゃんと目で働いている。ロボットくんたち、この部屋の隅っこがまだ汚れているよ。がんばれー、ぽりぽり。
ところが、次の瞬間だった。
目の前に突然、中学生くらいの女の子が現れる。
「魔女です。あなたを助けにきました。怪しい者じゃないです」
いきなりの『瞬間移動』に、シンデレラは驚いた。
(やばい。この子、本物の魔女かも)
のけぞった勢いで、かじりかけの「おせんべい」が口から飛び出す。
それを余裕でかわす彼女。床に落ちた「おせんべい」は、素早くロボット掃除機が回収した。
謎の女の子に対して、シンデレラは警戒する。
この世界には魔女がいる。
だから、こうして出会うこともあるだろう。女性雑誌の魔女特集によれば、人は平均すると一生に一回か二回、魔女に会うそうだし。
ここで重要になってくるのが、「魔女には二種類いる」ということだ。