Σ(゜д゜lll) まあ、こうなるわな(後編)
(まあ、こうなるわな)
シンデレラはOLさんに同情する。
キナコは「古流柔術」の使い手なのだ。免許皆伝の一歩手前だと、女子会で聞いたことがある。あの技はたしか、『走り一本背負い投げ・みたらし』。
キナコは看板娘なのと同時に、用心棒でもあるのだ。あの「おだんご屋さん」の平和を守っている。あの店で食い逃げをするのは、絶対にやめておこう。
もしも彼女が王子さまと結婚したら・・・・・・。
シンデレラは走りながら、少しだけ妄想する。
王子さまが「理解のあるタイプ」だった場合、彼女の意見を取り入れるかも。この国の学校、体育の授業が今よりも、週に六時間は増えそうな気がする。で、当然のように「格闘技」は必修科目だ。あと、「おだんご」が国民食になるかも。
キナコにいきなり投げ飛ばされて、悲鳴をあげるOLさん。
「安心してください」
そうキナコは優しく言ってるが、技を止める気はないらしい。
「手加減はしています。ですが、受け身をとらないと、折れますよ、骨」
その言葉に、OLさんの顔が大きく歪んだ。「安心できるか!」と、心の中で叫んでいるに違いない。
シンデレラも同意見だ。あの技、『走り一本背負い投げ・みたらし』を初めて見た時、かけられた相手は骨折していた。今回も、無事で済むとは思えない。
ところが、OLさんの体が地面に着く前に停止する。
なんと、空中に浮いた二つの手袋が、彼女を優しく受け止めていたのだ。
あれも魔法だろうか。目を輝かせるシンデレラ。
(もしも、あの魔法を習得できたら、ソファーに寝そべったまま洗濯物を干すことができる。電球を交換するのも楽ちんだ。こたつに入ったままで、冷蔵庫から何かを取ってくることだって。あの魔法、ものすごく便利! 応用できる範囲は無限大だ!)
そんなシンデレラに対して、キナコは技が決まらなかったことに不服そうだ。ほおを少しふくらませている。
とはいえ、今ので相手の力量は把握したらしい。明らかに格下。さすがに、ここから別の技につなげることはしないようだ。
キナコはOLさんの腕を離すと、そのまま一気に道の端を駆け抜けていく。
黒いドレスの女の子は一瞬だけ反応したが、キナコを足止めするのはあきらめたっぽい。
両腕を広げて、テテルとクーの正面をふさぐと、
「二人とも今すぐ止まりなさい!」
一方、シンデレラの状況はさらに悪化していた。自分のすぐうしろに、兵士たちの気配をはっきりと感じたのだ。まずいまずい、もうそこまで接近されている!
ここで限界突破を試みる。残りの体力を一気に使って、足の回転を上げようとした。
が、無理。シンデレラは転んだ。道の上で前転を決める。
それとほとんど同時に、さっきまでシンデレラの上半身があったあたりを、兵士の腕が空振りした。
その風圧を感じて、
(あ、危なかった)
でも、ピンチは継続中だ。
(誰でもいいから助けてー!)
もはや絶体絶命。たぶん、「捕まる三秒前」とか、そんな感じだ。
早く立ち上がろうとするものの、すぐ近くにいる兵士たちが叫んでいる。
「確保だ、確保!」
こちらを捕まえようと、彼らが手を伸ばしてくる。
その時だ。星空から謎の人影が降ってきた。




