Σ(゜д゜lll) 現行犯
走り出すシンデレラ。
あの革ジャンの女の子、「スティンクル」というらしいが、とんでもないことをしてくれた。
魔法の手錠でつながっているので、キナコも走り出す。テテルとクーも続いた。
走りながらシンデレラは考える。
一瞬だけだったが、見逃さなかった。
スティンクルが檻の中で声を張り上げている時だ。フォーテシアがお城の方を、さっと指差したのだ。
何を伝えようとしていたのかはわからない。でも、こういう状況で何の意味もなく、ああいうことをする子じゃない。必ず意味がある。
走り出した時、逃げる方向の選択肢は二つあった。お城に向かう方と、そうでない方だ。この道を前に進むか、それとも引き返すか。
シンデレラが選んだのは前進だった。フォーテシアを信じてみる。
ちらりと背後をふり返ると、兵士たちの姿が目に入った。まずい。すごい数が追いかけてきている。
(これって、あの畑にいたほぼ全員なんじゃ・・・・・・)
シンデレラは顔を戻して懸命に走る。
「お先にー」
クーにあっさり追い抜かれた。まあ、彼女は仕方がない。ほら、忍者っぽいし。
「私も先に行く」
プレートアーマーのテテルにも追い抜かれた。さらに和服のキナコにも。
シンデレラは重要なことに気づく。この四人だと、自分が一番足が遅いのだ。しかも、他の三人とはかなりの差があるっぽい。
(つまり、真っ先に捕まるとしたら私?)
とはいえ、キナコとは手錠でつながっているので、彼女も道連れだ。すぐ前を行くキナコとは、これ以上の差は広がらない。
彼女には申しわけないと思うものの、こういうことも含めての同盟関係だ。
しかし、できることなら捕まりたくない!
檻の中で『お目々のラジオ体操』をする自分、そんな想像をふり払って、シンデレラは必死に走った。
けれども、後方からは足音の群れが、どんどん近づいてくる。
フォーテシアやスティンクルと違って、こっちはまだ「未遂」なのに、兵士たちが叫んでいる。
「カボチャ泥棒ども、待ちやがれー!」
すでに「泥棒」扱いだ。
きちんと訂正して欲しい。
だが、困ったことに、今持っているエコバッグの中には、「カボチャがまるまる一個」入っている。
状況的には「現行犯」だ。スーパーのレシートを見せても、信じてもらえない気がする。カボチャ泥棒チャレンジに成功したと、勘違いされる気が・・・・・・。
「シンデ・・・・・・シンディちゃん、もっと急いで」
兵士たちに聞こえるかもしれない距離なので、本名を避けるキナコ。
次の瞬間、兵士たちが言う。
「あれって、『おだんご屋さん』のキナコちゃんじゃないか?」
「そういえば、似ているな」
この場面で桜色の着物が災いする。そんな服装を普段からしているのは、ここら一帯だと彼女くらいだ。ばれない方がおかしい。
その直後である。
「シンデレラちゃん! もっと急いで!」
キナコが大声で叫んだ。
シンデレラは焦る。
ここら一帯で「シンデレラ」という名前は、自分一人しか知らない。
あとは野良猫が一匹だ。継母と義理の姉二人がよく虐待している。
「シンデレラちゃん、私は洗濯中だった着物を何者かに盗まれたことにするね」
囁いてくるキナコ。
シンデレラは考える。そっちがそういう考えなら、ここで足を止めて兵士たちに捕まってやろうか。
そうすれば、捕まるのは自分だけじゃない。キナコも道連れだ。手錠、万歳。
そこにクーとテテルが引き返してくる。自分たちだけ逃げたことを深く反省して、助けにきてくれたのか。
クーが早口で言う。
「ごめんごめん。忘れていたよ。これだと走りづらいよね」
テテルがエコバッグを奪い取って、
「カボチャは私が預かる。魔法の手錠は今すぐ解除するから」
そして、魔女二人が同時に触ると、黒い手錠がかき消えた。手首が一気に軽くなる。
その直後だ。
キナコが加速しやがった!




