Σ(゜д゜lll) カボチャ泥棒チャレンジ(後編)
「フォーテシアちゃんが捕まっちゃってるね」
キナコが事実をありのままに言う。
シンデレラは無言でうなずいた。フォーテシアは普段から、おっとりした子だ。檻の中でも、それは変わらないらしい。退屈しのぎに、あれはたぶん、『お目々のラジオ体操』をしている。
でも、ああ見えて彼女は頭が切れるのだ。
そして、そのことをシンデレラとキナコは知っている。
おそらくフォーテシアは今、『お目々のラジオ体操』をしながらさり気なく、兵士たちの配置や彼らの巡回ルートを調べている。
そこでシンデレラはフォーテシアと目が合った。
すると、彼女が視線を横にずらした。
その意図がシンデレラにもわかる。あのまま一点を凝視していたら、「あそこに誰かいるよ」と兵士たちに教えるようなものだ。
フォーテシアが『お目々のラジオ体操・第二』を始めた。
で、檻の中にはもう一人、女の子が捕まっている。
その姿を見て、テテルが小さくため息をついた。
「【スティンクル】が捕まっている」
クーが「だよね」という顔になった。
こっちは二人の知り合いらしい。黒いセーラー服の上に、銀色の革ジャンを着た女の子だ。あの革ジャン、両そでが切り落とされていて、「ノースリーブ」になっている。
兵士たちがやったものとは思えない。たぶん、あの子の趣味だ。革ジャンを自分で加工したのだろう。
あと、お約束のように、「縁のついたとんがり帽子」と「見習いバッジ」だ。
「で、どうする?」
クーがテテルに話しかけた。その表情は曇っている。
「どうする、というよりも、どう考えるかの方が大事。私たち以外に、スティンクルもいるってことは・・・・・・」
「『四人目』もいる、そう考えるのが自然か」
短い沈黙のあとで、魔女二人が同時にため息をつく。
ただし、クーの表情がさらに曇っているのに対し、テテルの表情はあまり変わっていないようだ。『四人目』がいる可能性を、もともと考えていたらしい。
そんな二人の様子を眺めながら、シンデレラは頭を整理する。「テテル」と「クー」と、あの檻の中にいる「スティンクル」という子で三人。クーが『四人目』と言っているから、さらに魔女がもう一人いる?
シンデレラは回想した。テテルとの契約、自分はノーリスクだが、彼女は『退学』というリスクを負っている。
スーパーでキナコに聞いた話だと、クーも同じ状況らしい。キナコが王子さまと結婚できなければ、魔女の学校を『退学』になるとか。
(じゃあ、あのスティンクルや『四人目』も・・・・・・)
王子さまと結婚できるのは、シンデレラたちの中の一人だけ。だから、このミッションを達成できる魔女も一人だけだ。
つまり、四人の魔女の内、三人が『退学』になる。
この国の王子さまが「四つ子」だった、なんて話は聞いたことがないし、
(魔女の世界って厳しいんだな)
しかも、ミッション成否の最重要部分を他者に委ねていて、魔女自身にできることはサポートのみだ。
テテルが『退学』にならないためには、シンデレラ自身ががんばる必要がある。
王子さまの顔は知らないけれど、性格は「まとも」だという噂だし、権力と経済力は保証つきだ。隣国との関係も良好みたいだし、国民に一揆や革命を起こされる心配も、今のところはなさそうだ。あと、王子さま直属の執事が、ものすごくかっこいいらしい。
・・・・・・ふむ、そっちでもいいな。その時はすまん、テテル。
とはいえ、舞踏会には、自分たち以外にも女の子がたくさんいるはず。ライバルは多い。
(ばれないように料理に盛っちゃおうかな? 即効性の強力下剤、『トイレの恋人くん』の出番かも)
そんな工夫でもしない限り、テテルたちが四人まとめて、『退学』になる可能性が高いような・・・・・・。
そうなった時、シンデレラにできるのは、舞踏会を満喫した笑顔を全力でこらえて、ものすごく悲しい表情をするくらいか。
その場合に備えて、テテルやクーに気づかれないように、あとでこっそりキナコと打ち合わせしておこう。「ウソ泣きするのは、このタイミングで」とか。
「スティンクルが、ぼくたちに気づいたぞ」
クーがテテルに言うのを聞いて、シンデレラは頭の整理を中断した。
カボチャ畑の方を見ると、銀色の革ジャンを着た女の子が、檻の中からこちらを見ている。
まずい、ガン見だ。あの子、凝視している。バカ、やめろ。私たちの存在が、兵士たちに気づかれるだろうが。
そこで彼女がニヤリとした。
そして、いきなり声を張り上げる。
「兵士のみなさん、あいつらです! あいつらが私たちに言ったんです! あの畑からカボチャを盗んでこないと、ひどい目に遭わせるって! 本当です! ウソじゃないです! あいつらが黒幕だ! 私たちはだまされただけ! さあ、兵士のみなさん、今こそ出番ですよ! かっこいいところを見せてください! ここにいる美少女二人が、全力で応援していますよ!」
その発言をすべて信じたわけではないだろうが、兵士たちがこっちに向かってくる。
最悪の展開だ。