Σ(゜д゜lll) 最大火力で(その三)
金髪の王子と銀髪の執事は、窓の外を見上げていた。
ここまでは、ウルフェニックス先生たちに聞いていた通りだ。城の時計台に封印されていた最強魔女の復活。
窓の外に見えているのは、特撮ヒーローのような金属スーツを着た人物だ。外見こそゾーンビルド先生だが、凶悪な気配を漂わせている。
どうやら、最強魔女がゾーンビルド先生の体を乗っ取ったらしい。
これも、先生たちに聞いていた通りだ。確実とまでは言えないが、そのような可能性もあるとか。
ただし、それはどちらかと言うと、好ましい状況だとも聞いている。ああやって体を乗っ取らせたのは、おそらく作戦。先生たち、特にゾーンビルド先生には、何か考えがあるのかもしれない。
金髪の王子と銀髪の執事は、すぐさま動いた。事前に聞いていたので、自分たちに驚きは少ない。混乱することなく、予定の行動をとった。
まず、舞踏会を中断させる。
それから、招待客たちの避難だ。城の者たちの誘導によって、城の正門へと向かってもらう。
避難が始まると、金髪の王子と銀髪の執事も舞踏会の会場から出た。
ただし、自分たちは城の正門ではなく、ここよりもっと上の階、そこにある空中回廊へと向かう。今の状況を高い場所から確認しておきたい。隣国の王子、リチャードもついて来た。
金髪の王子は走りながら考える。
あの最強魔女には、恐るべき力がいくつもあるらしい。
その一つが、「自分の周囲にいる男性を、カエルに変えてしまう」能力だ。
空中回廊に着くと、いきなり目の当たりにする。あれが最強魔女の力なのか。時計台に近い場所、そこにいる兵士たちが次々と、カエルの姿に変わっていく。
しかも、『カエル化』の範囲は少しずつ広がっているようだ。この空中回廊はまだ「安全エリア」だが、いつ「危険エリア」に変わってもおかしくない。
さらに別の脅威もある。
最強魔女のつくり出した火球だ。紫色をしたカボチャ型の火球が大量に、夜空に浮いている。
金髪の王子たちが空を見上げていると、火球の一部が動き出した。この城に降り注いでくる。
今日のために前もって、先生たちの魔法で「城の壁を強化」してもらった。そのおかげで、今のところ城の被害は小さい。
だが、これ以上の攻撃になると・・・・・・。降ってきた火球は、ほんの一部にすぎないのだ。
事前に聞いていた話だと、ウルフェニックス先生たちは「最強魔女の封印に専念する」ので、「その前の戦闘には基本的に参加しない」とか。
だから、「最強魔女と戦う者たちを連れてくる」と聞いていたのだが・・・・・・。
空中には現在、数人の女の子たちがいる。あの女の子たちはおそらく魔女だ。普通の人間は、あんな風に空を飛ぶことはできない。
その内の一人は、はっきりと見覚えがある。舞踏会の会場にいて、お皿に料理を高く盛りつけていた。
あの時はドレス姿だったが、今は違う。黒いセーラー服の上に、銀色の革ジャンを着ている。あの革ジャン、両そでが切り落とされていて、「ノースリーブ」になっていた。
他に、黒いプレートアーマーを着た女の子もいる。
さらに、あと二人。合計四人だ。
彼女たちで本当に大丈夫なのか? あの四人がそれなりに強いとしても、さすがに相手が悪すぎるのでは・・・・・・。
「王子、少し移動しましょう」
銀髪の執事が告げてくる。
その視線の先を見て、金髪の王子は察した。
兵士がまた一人、カエルの姿に変えられてしまったらしい。最強魔女の『カエル化』能力、その範囲が確実に広がっている。あの辺りは先ほどまで、「安全エリア」だったのに・・・・・・。
「そうだな。もう少し距離をとろう。おい、リチャード、ここから今すぐ」
隣国の王子に声をかけようとして、金髪の王子は気づく。
リチャードがいないのだ。今の今まで一緒だったのに・・・・・・。
まさかと思い、足元を探す。
そこにカエルはいない。
が、リチャードもいない。
「王子、あそこです! あのバカっ!」
銀髪の執事が指差したのは、もう一つ先の空中回廊だ。
リチャードが走っている。何を考えているのか、時計台がある方へと向かっていた。
あっちはすでに、「危険エリア」だ。




