Σ(゜д゜lll) カボチャがなければ始まらない
王子には気がかりなことがあった。
表向きには今夜の舞踏会、「カボチャの料理をたくさん楽しんでもらう」という趣向になっている。
その旨は、『招待状』にも書いてあった。一方で、「王子の結婚相手を決める」というのは書いていない。
そういうわけで、今夜の舞踏会にはカボチャがたくさん必要だ。
なのに、昨夜の流れ星で王家のカボチャ畑に被害が出たらしい。
その真偽について尋ねると、
「残念ながら事実です」
執事が認めた。
「わかっていると思うが、買い足すのは最低限にしただろうな」
まじめな顔で王子は言う。
王家がカボチャを大量に購入すれば、市場に出回る量が減って、カボチャの値段が上がる。それで得する者もいるだろうが、困る者もいるだろう。
「承知しております」
執事はポーカーフェイスでうなずいた。昨夜の流れ星で、かなりの被害どころか、王家の畑にあったカボチャが「全滅」したことは黙っておく。
市場での買い占め、それに近いことをしなければ、必要な量のカボチャを確保するのは無理だった。
貴族たちの中には、カボチャの高騰で一儲けしようと、王家からの買い取り要請を体良く断っている者もいる。カボチャを使う目的が「舞踏会の料理用」なので、こちらとしても強くは言いにくいのだ。
「十分な量のカボチャを用意できなくても構わんぞ。事情が事情だしな。他の野菜、たとえばナスやピーマンの料理で補えばいい」
だが、そう口にしながら王子は思う。
すでにカボチャを大量に買っているだろうし、今からでは調理場の都合もある。もっと早くに情報を得ていたら、有効な手を打てたのだが・・・・・・。
市場でカボチャが高騰していないことを、本気で祈るのみだ。こんなことで国民の怒りを買って、一揆や革命を起こされたくない。末代までの恥になるどころか、最悪の場合、自分が最終王子になってしまう。王家の歴史のラストページ。
また、今夜の舞踏会の結果次第では、別の形のラストページになる可能性も・・・・・・。
そんな不吉な想像を、王子は強引にふり払うと、
「で、流れ星の方は何かつかめたか?」
「まだ調査中です。ただ、自然現象ではなく、人為的なものである可能性が高いかと」
「やはりか」
昨夜の流れ星については、変な色をしていたという話も聞いている。
人為的なものとなると・・・・・・
「一番ありそうなのが、リチャードの仕業か。あいつなら、こういうことをやりかねない」
そう言って王子はニヤリと笑う。
リチャードは隣国の王子だ。自分とは同年代の良いライバル。
リチャードから先ほど手紙が届き、「今夜の舞踏会、必ず参加してやる」と書いてあった。まるで犯行予告だ。
しかし、今夜の舞踏会には重要な目的がある。この国の王子として、結婚相手を決めるのだ。
そして、リチャードは女好き。だから、今夜の舞踏会には呼ばなかったのだが・・・・・・。
「来ると思うか?」
期待しながら王子は言う。
「来るでしょうね。こういうことには燃える御仁ですから」
執事はため息をつくと、
「カボチャ畑の流れ星、あれがリチャード王子の仕業なら、すでにこの国に入り込んでいることになります。王家のカボチャ畑の近くには、もういないでしょう。おそらくは、この城の近くに来ているかと。めだたないように、単独行動している可能性が高いです」
「そいつは厄介だな」
王子は楽しそうに言う。
とはいえ、「招かれざる王子」によって、舞踏会をぶち壊されるわけにはいかない。
そもそも、リチャードには『招待状』を送っていないのだ。この城に普通に入ろうとすれば、門前払いを食らう。
そのあとおそらく、強行突破しようとするだろうが、それも無理だ。
今夜の舞踏会、招待客たちの中には、戦いに秀でた者たちもいる。
その一人が現在、自発的に門の警備に加わっているのだ。
「いくらリチャードでも、あの『先生』を突破することはできない」
王子は自信満々に告げる。
しかし、少しだけ期待していた。こういう時のリチャードは、こちらの予想を平気で裏切ってくることがある。
たとえ、『先生』の一人が相手でも、あのリチャードなら・・・・・・。




