第91話 想い馳せる夕焼け
夕方に吹く風は少し冷たく、夜に向けて世界は移り変わる時間。私はこの時間を肌で感じる時間が一番尊い時間だと感じている。
屋上広場の柵に両腕を乗せ、夜に向けて忙しなく変わる街を眺める私とイヴリン。風に揺れる髪と、その間から見える彼女の横顔は、浮かない顔をしていた。
「イヴリンは発表、どうするの? 運命属性って他人に見せるの難しそうだけど」
「うん……一応、メーヴィスに協力してもらう予定だよ。何するかはまだ決めてない」
「また鳥のフンを落とされる運命でも使ったら? メーヴィスは笑いながら許してくれるよ」
「それは、考えとく。――ねえ、アルマリア」
「うん」
「あのね、私にも、小学校時代の友達、いるんだ。でも、その子とは学校で会えてなくて、今もまだ会えないんだよ」
「そうなんだ。それは辛いね。その子ももしかして、体が弱い子?」
「そうなんだよ。だから、今も病院にいる。だから、あまり遠出したことも、夜の風景を見たこともない。あの子の時間は全部、病状に左右されるんだ。昼間にきつくなったら薬を飲んで寝て、夜は体を動かす元気もなくて、窓の外ぐらいしか眺められない」
イヴリンは私を見上げる。私は彼女の橙色の瞳を見据える。
「私は、その外に出られない運命を、壊したいんだよ、アルマリア」
「操るんじゃなくて?」
「うん。完全に無くしたいんだ。操るとも違う。超えるんじゃない。瓦礫の山にして無残な姿にして、その子を助けたい。だから、もし、私がアルマリアに手伝ってほしいことがあったら、お願い、してもいいかな」
私は笑顔で答えた。
「もちろん。私は、困っている人がいたら、見て見ぬふりはしないから」
イヴリンは笑顔になり、そしてまた夕方の空を眺めるのだった。