第89話 中学生らしさ
私は屋上のベンチに座り、空を眺める。雲がゆっくりと流れ、運動部の声が遠くから響く。
アーネストが出ていったあと、私たちは自由行動に移った。私はその時間にはいつも屋上に来て空を眺めている。皆といるのは楽しいが、それと同じくらいに、一人で空を眺める時間も欲しいのだ。
「マ~リア!」
そんな静かな時間に入ってくる親友は、飛び切りの笑顔で私を呼んだ。ジークも一緒だ。
エルヴィラの薄い青の瞳が私を見つめ、蒼いロングの髪が風に揺れる。
「アーネストとは一体どんなご関係で?」
「別に、ただのクラスメイトだけど。何、どうしたの?」
「いやさ、さっきのやり取りを見てると、もはや付き合ってる? みたいな感じあったし、真相が気になってね! それで、真相は?」
「だから、何もないって。私はクラスメイトでも普通に仲良く出来る人には仲良く接するってだけで、そんな感情はないんだよ」
「ふーん、分かった分かった! それじゃあ今のところはそういうことにしとくよ! ね、ジーク!」
「そうだな。これ以上追求しても何も答えはでないだろうし」
二人は先ほどのアーネストとのやり取りでそういう勘違いをしていたようだ。イブリンといい、恋愛話しが好きな人が多い。いや、むしろ自分が疎いだけなのか。
「でも、知ってる? 学生の間でね、魔法学実習の発表に異性を選ぶのって、あなたのことが気になってるって宣言を意味するんだって! もしかして、アーネストはそのつもりなのかも!」
「なるほどね。だからエルヴィラはそんなに気にするんだ。まあ確かに、アーネストはどういうつもりなのかは知らないよ。私としては別に気にする気もないし。頼まれたことをやるだけだよ」
「ふっ。流石、空が恋人のアルマリアだな。中学に上がって恋愛に脳を焼かれるんじゃないかと思っていたが、その心配はないようだ」
「ジークは全然だめだね! 中学生なんだし、恋愛の一つや二つ、ないとつまんないでしょ! 私はいつでも気にするよ! だからマリアも良い人いたらすぐ話してね! じゃあ、私たちは行くよ! お邪魔してごめんね!」
エルヴィラは勢いよくまくしたて、ジークの背中を押すようにして屋上を出ていった。急に訪れた静寂に、私は慣れるまで時間がかかったのだった。