第88話 頼み事
「あーどうしよー! 自信ないなー」
放課後、天文学部の小さな部室に集まった私たちは魔法学実習の発表について話していた。余裕の表情を見せる人たちもいれば、嘆く人もいる。私はどちらかというと、余裕の表情をしている方かもしれない。
「メーヴィスー、どうしようー! 自信ないよ!」
「あたしに言われても、あたしだって余裕ないし! エルヴィラは全然問題ないっしょ! あの優秀な兄さんもいるんだしさ!」
「ん? 確か、メーヴィスにも姉が……」
「ジーク、それはあまり」
「オズマンド? ――分かった」
「わ、私も、運命属性だからどう発表しようかな?」
「また鳥のフンでも誰かに当てる、とか?」
部室内はそんな会話で溢れ、時に笑いが起き、ボケと突っ込みが出てくる。まさに青春の一端に私が存在していると、ふと実感した。その時、部室のドアが開いた。私たちはその開けた人に視線を送る。
「アルマリア、やはりここだったか」
「アーネスト? どうしたの?」
そこにいたのはアーネストだった。薄茶色の瞳が私を見据え、灰色の髪を揺らして中に入る。
「今最もホットな話題について、相談したいんだ。魔法学実習の発表で、僕は戦闘の中で魔法を表現したい。だから、アルマリアにその相手を頼みたい」
「私? 別に良いけど……」
「おい、ちょっと待てよ」
私の声を遮って、ジークが会話に入る。
「どう考えても危険だろ。何を企んでる?」
「企むも何もない。本気で戦うわけじゃないしな。大体の流れは、アルマリアが魔法で僕を攻撃して、その魔法攻撃を自分の魔法で対処する。簡単な話だ」
「ならその役目は俺がやる」
「炎属性魔法しかまだ扱えない未熟者じゃ映えないだろう? アルマリアは少なくとも水属性と風属性を使える。だから頼んでるんだ」
「ジーク、別に私は大丈夫だよ。アーネストは大丈夫だと思う」
私はジークを制し、アーネストの前に出る。
「良いよ。どんな感じでやるのかはまた相談しよう。今日は自分たちのことで頭いっぱいだからね」
「分かった。頼む。それじゃ、邪魔したな」
アーネストは踵を返し、部室を後にした。近くに感じる、ジークの殺気を背中に受けながら。