第65話 彼女の魔法
私たちは歓楽街の大通りから外れ、裏通りへと入り、そして小さな公園のベンチに座る。イヴリンは少し歩いただけで息を切らし、ベンチで息を整えている。少し汗ばんだ頬をハンカチで拭い、深呼吸をする。少しぼさっとした黒のミディアムヘアがゆらりと風に揺れ、彼女は徐々に息を整えていく。
「えっと、すみません、体力なくて……」
「私は大丈夫だけど、イヴリンは大丈夫?」
「ええ、息は整いました。それでは始めましょう。わたしが魔法を発動します。私を追っている人たちをこの場所にくる運命にして、そしてここでアルマリアさんの魔法で撃退される運命に操作します。なので、アルマリアさんはやつらが来たらなんでも良いので魔法を発動してもらえれば大丈夫です」
「な、なるほど。分かったよ。でも、すごいね、そんなこと出来ちゃうんだ」
「あはは……それじゃあ、始める前に少しわたしの魔法について説明しますね。 わたしの天性属性は運命。運命属性の特徴は、文字通り、運命を操るんです。簡単に言えば、相手の行動などを操るんです」
「言ってることやばいよね。それってつまり、敵を思い通りにさせられるんでしょ?」
「そ、そうですね。流石になんでも出来るわけではないですけど、強い人が使うとほぼ相手を手玉に取れちゃいますね。わたしの場合は、戦闘の時の相手の行先や攻撃の命中について操るのが精一杯ですよ。それも、確実に操れるわけじゃなくて、魔力抵抗が強い人だと効かないことも多いんです。今回はただのチンピラなので大丈夫だと思うんですけどね。確実性を取るならせいぜい、意志に躓くととか、鳥のフンに当たるとかならほぼ100パーセント運命を操れると思います」
「そうなんだ。なるほどねぇ、結構面白いね、運命属性って。嫌いなクラスメイトに鳥のフンを頭に落とすことも出来るし」
「そ、その発想もありますけど、わたしは、この力を嫌がらせには使いたくないっていうか……」
「ああ、ごめん、ただ思いついただけだからさ。うん、よく分かったよ、イヴリンの天性属性の特徴。それじゃあ、そろそろやる? 私は準備大丈夫だよ」
私はベンチから立ち上がり、伸びをしながらイヴリンに言う。そして、イヴリンもベンチから立ち上がり、私の顔を少し見上げるようにして私を見ながら、言った。
「そ、それじゃあやりましょう。運命を操ります」