第60話 真実の力
「それでアーネスト、こいつも依頼に含まれるのか?」
「さあ、どうだか。依頼には全く書いてなかったから、倒しても意味はないだろうな」
ジークとアーネストはさも余裕そうな声で話す。短い会話が終わると、アーネストは手にロッドを、ジークはポケットからグローブを取り出して身に着ける。この二人の行動は、明らかにこの中位種のリザードマンを相手にするためのものだと、すぐに分かった。
「二人とも、まさかこのリザードマンを相手にするつもり? 逃げた方が良い気がするんだけど、それは私だけ?」
「アルマリアはこのまま逃げろ。ここは俺とサポートのこいつでやる」
「いや、違うな。囮役のお荷物と、メインアタッカーの僕でやる、だろ?」
「……分かった。それじゃあ、二人のサポーターに、メインアタッカーの私でやろう」
私の方を見る二人に、いたずらな笑顔を向け、私は魔法を準備する。アーネストにも勘付かれているのなら、もう隠す必要はないだろう。私が魔法を準備していることを理解した二人はリザードマンの方へと向きなおし、近接特化の魔法をそれぞれ発動しながらリザードマンへと突撃した。
ジークの攻撃は超近接特化の炎属性魔法だ。彼のグローブは一般的な長杖やロッドのような補助の役割を担い、絶えず燃え盛る拳を突き出す度、敵を包み込むほどの炎を継続して発動する。
アーネストは手にロッドを構え、私と戦った時のように地属性魔法の槍を3本出現させ、近接戦闘を仕掛ける。
二人の猛攻から、私の役割は必要ないかと思ったが、流石の中位種だろうか。全てではないが彼らの攻撃を捌き、そもそも体のに入る攻撃も、怯みはするがその強靭な体の鎧が防ぎ、ダメージはあまり通っていないように見える。
二人の猛攻で私の方に攻撃が来ない間に、私はイメージする。空より悪を裁く天罰の雷。そしてそれを顕現させる、神話の神の姿を。
その私のイメージと共に、天は急激に天気を悪化させ、雨は降らないが雷光が迸る積乱雲を呼び起こした。ここまで進めば、いつでも発動することが出来る。
そんな矢先、私の前に二人が倒れ込んできた。どうやら彼らの猛攻空しく、リザードマンの反撃にあったようだ。私はすぐにリザードマンの方へと目を移すと、私たち目掛けて突撃してきていた。
「二人とも! ほんの少しだけあいつの動き、止められる?」
「俺は出来る。アーネストはどうだ?」
「僕を誰だと思ってる?」
アーネストは上半身だけすぐに起き上がり、ロッドを掲げ、地属性の蛇を発動し、リザードマンに巻き付かせる。続けてジークが炎属性の熊を生み出し、真正面から衝突させた。二人の魔法で足が止まったことを確認した私はすぐに魔法を発動した。
「偉大なる天雷、ここに裁きの雷を振り下ろし、安寧の浄土を輝かせる。『リトリビューションライトニング・ゼウス!』」
私は大魔法を発動した。私のすぐ足元に光の照準が光り、それはまさに歩みを進めるかのように一気にリザードマンの方へと向かって行き、光の照準の中に入った瞬間、私に一番近い光の照準から順番に、天より黄雷が落ち、最後にはリザードマンを捉え、炸裂した。その時に激しい煙が巻き上がり、一時的に煙で視界が遮られる。
そして、煙が徐々に減れ、先ほどまでリザードマンがいたところには、雷によって穴が空いた大地を残し、リザードマンは完全に消滅していたのだった。