第58話 炎と風に撫でられて
「見つけた。あれが今回のクエストの目標だ」
アーネストが指を指した先には、拠点を築いた魔物たちがいた。見える範囲で約5体見える。魔物の種類は分からない。
「ほう、リザードマンの下位種か。持ってる武器も粗悪品に見える。こんな相手に3人も必要か?」
「そう思うならお前ひとりでやるか」
「いいぞ? そこでお前たちが排斥してきた一族の力を見てろよ」
「ジーク。大丈夫? 別に3人で安全に終わらせる方が良いと思うよ」
「大丈夫だアルマリア。俺の力、知ってるだろ」
そう言って、リザードマンと呼ばれる魔物の方へとジークは堂々と前に出る。彼に気づいたリザードマンたちはすぐに戦闘態勢に入り、バラバラにジークの方へと襲い掛かる。
「アルマリア。あいつは本当に大丈夫なのか。助けてやることも出来るぞ」
「うーん。まあ多分大丈夫だと思う。小学部の時から結構な稽古してたみたいだし」
ジークは武器を持たず、拳を構える。彼の拳にはすでに炎属性の中魔法陣が展開され、いつでも魔法が発動できる状態となっていた。リザードマンの1匹が剣を振りかぶり、彼に目掛け振り下ろす。しかし、その剣は彼に届くことなく、彼の燃える拳によって焼き折られ、折れた剣は無常に宙を回転する。その光景に気を取られていたリザードマンの顔面に、ジークの火を纏った回し蹴りが炸裂し、頭を燃やしながらリザードマンは蹴り飛ばされた。
次々に襲い掛かるリザードマンを順番に相手取り、誰の攻撃も当たらぬまま、盾は穴を空けられ、剣は焼き折られ、リザードマンの体は拳と脚の焼き跡を残しながら、全員地面に倒されていた。
「……ふん。まあその程度の魔物そのくらい簡単にやってくれないとな」
「言ってろ。ちなみに、今回の力はせいぜい1割程度しか使ってないがな」
またしても二人が言い合いを始めているその時、リザードマンが1匹、茂みに隠れてジークを狙っている姿を偶然発見した。向こうはジークに集中しているようで私の方には気づいていない。私はすぐに魔法を準備する。その時、突然強風が吹き、木々を揺らした。茂みも大きく揺れ、そのタイミングでリザードマンが飛び出してきた。私は突如吹いた強風を利用し、自然風の弾丸を形作ってリザードマン目掛けて撃ち出した。自然風の弾丸はリザードマンの頭部を捉え、激しくはじき出し、大きな木の幹に頭部がめり込んでそのまま気に頭を突っ込んだまま動かなくなった。
「ジーク、危なかったよもう」
「……助かった。ありがとう」
私はジークの無事を確認する。その時に、アーネストが私の方を見ていることに気づく。そして、彼は私に対して口を開いた。
「やっぱり、アルマリアの今の属性、ただの風属性じゃないな」
私の心臓は空に飛ぶほどに鼓動を強めた。