第56話 最高の誘い
アーネストは手に持っているサンドイッチを食べきり、飲み物で胃に流し込む。その姿をじっと見ていると、彼は照れくさそうに話し始めた。
「なんだよ。僕の食べてる姿見ても面白くないぞ」
「ああ、いや、食べてる姿を見てたんじゃなくて、なんでここにいるのかなって、驚いてただけ」
「別に、ここはアルマリアの専用の場所ってわけじゃないだろ。ケチなこと言うなって」
「うん、まあそうなんだけどね。純潔であるアーネストがいると、なんだか不思議に感じるんだよね。この国で偉い貴族中の貴族のはずなのに、一人寂しく屋上でごはん食べてるなんてさ」
「うるせ。言ったろ。僕の一族は社会的な立場としちゃ下の方なんだよ。一般市民に尊敬されず、同じ純潔一族からは鼻で笑われて、昔から従属している一族も、今じゃ傍にいるだけさ。この学校じゃ僕は孤立してるのと同じなんだよ」
「うーん。なんか、ごめん」
「急に謝んなよ。それはそれで辛い」
私は柵の上から飛び降りて、ベンチに座らずにそのまま地面に座り、買ってきたごはんを食べ始める。社会的な立場って難しいなと、頬張りながら思っていた。
「なあ、アルマリア。お前、今日の授業退屈だろ」
「んー、そうだね。特に今日は退屈で、午前中はほとんど空を見てた」
「だと思ったよ。そんなお前に、ちょっと手伝ってほしいことがあるんだ。悪いがそれを食べた後、付き合ってもらう」
「あのさ。それってつまり、午後の授業をサボれってことだよね。お偉い純潔様が、そんな悪行に率先して誘って良いの?」
「良いか悪いかで言ったら悪いな。んで、どうなんだよ」
「……ま、授業よりかは楽しいなら喜んで」
「よし、決まりだな。お前、意外に悪ガキなんだな」
「退屈だって思うことに対してはあんまり熱意がないだけだよ。それで、何する感じ?」
彼はポケットに手を入れ、そして一枚の紙を出す。それは、旅人ギルドが発行している依頼、クエストの受注書類だった。
「旅人ギルドに寄せられた、魔物退治だよ」