第54話 空を撫でる
「そういう背景があるから、普通に勧誘したって入部する怖いもの知らずはいないだろうな」
「なるほどね。よく分かったよ。それじゃあ、今日はもう勧誘のことは忘れて、空に浸りたい」
そう言って、私はベンチの背もたれに頭を乗せ、今日の空を仰ぎ見る。風に押され、ゆっくりと流れる雲を見る。静かに鳴る風の音に耳を傾け、街の声を背景に空を感じる。これが今の私の空を感じる流行りの方法なのだ。隣に座るジークも、喋るのをやめて、静かに空を見上げて眺めている。あの日、エルヴィラが天文学部の復活を提案してくれたのは、今になって思えばかなり救いだったのだと実感する。自分の趣味を部活にすれば、退屈することなく活動をすることが出来る。廃部になるとそれが出来なくなるのは確かに辛いが、まあそうなったらそうなったでまたその時にどうするかを考えればよいだろう。とにかく今は、部活動として、空を観察したい気持ちが強くなっていた。そのことをジークは理解してくれている。だから、会話が無くても別に気まずいとかもないのだ。
その日の活動は、夕方に染まる空を見届けるまでベンチで空を眺めていた。