第39話 扉の前へ
目指す目的地へ続く道を、記憶を辿りながら歩く。空色は重く、時折強い風が吹くようになり、風が髪と制服、スカートを揺らす。
(ジーク達も連れ去ったのは、多分名前や事情を広められたくないから。少なくとも私と2人でやり取りをしたいんだろうね)
彼は大きく悩んでいた。どうするべきかを悩みながらも信じたい道のために動いていた。でも、彼の想いは彼女に悟られてしまった。悟られた時点で、誰が先に動こうが、この状況になるのは決まっていたのかもしれない。
(全く、私としてはそんな純潔だから偉いとか、それ以外が偉くないとか、縛られるようなことは好きじゃない。思い描く自由が良い。この曇り空のような、果てない自由を、私は愛したい)
この世界には不自由、不平等が存在する。当たり前だと言われるだろうが、その当たり前の世界を、私は当たり前なんだと諦めたくない。少なくとも、そんな世界の中で、私は自由を選ぶだろう。自由を選べるように、騎士以上に強い旅人になりたいと、幼い頭で希う。
私は今はほとんど使われなくなった郊外の道を歩き、そうして、目的地が視界に入ってくる。そこは、以前彼に連れられてきた、歴史の忘れられた屋敷だった。その庭園に続く門に、見覚えのあるローブを纏った人がフードを深くかぶりそこに立っていた。私の姿に気づくと、ゆっくりと誘うように屋敷の方へと踵を返し、そして屋敷の中へと入っていく。私は朽ちた庭園を進み、屋敷の中へと入る。
中に入った瞬間、私は確信した。彼女はここに来たのだと。至る所に氷魔法の残骸が残り、氷漬けにされている壁やドアもあった。
ローブ姿の人は、1階の中央にある大きな中央開きのドアを入れる分だけ小さく開け、中へと消えていく。私も彼の後を追い、中央開きのドアを開けた。
そこは大広間だった。明らかに戦闘を繰り広げたであろう氷魔法と地魔法の跡が目立ち、温度は明らかに低くなっている。
ローブ姿の人は大広間の中央に設置されていた、地魔法で作った岩の玉座へと座り、私の方を見る。私は少しずつ歩み寄り、そして声が届きそうなところまで来たところで、彼に言った。
「それじゃあ、答え合わせをしようよ。アーネスト」
私の言葉に続き、ローブの人はフードを外す。そこにいたのは、純潔一族の一人、アーネスト・シュプリンガーだった。