第38話 誘い
恐らくこの学校でもう授業をサボるのは私たちが初めてだろう。私、アルマリアとジーク、オズマンドとメーヴィスは、奇跡的に誰にも鉢合わせになることもなく屋上から1階の靴箱まで急いで移動し、私を先頭に学校の敷地内から飛び出していた。学校からそれなりに離れた広場まで一旦走り、息を整えるために一度その広場に立ち止まる。
「それで、アルマリアはどこに向かっているんだ。さっきの手紙に何が書いてあったんだ?」
「迷いのないその感じからして、何かしら確定的な何かがあってのことでしょう」
「あ、あたしのも分かるように説明してね!」
「う、うん。えっと、ごめん、まず前提としては、確定的な何かがあってのことではないのは言っておくね。あくまで直感」
そして一息ついて、順序を立てて説明を始めた。
「まず皆が分かるところから言っていくと、今回のエルヴィラの件は、恐らくは以前の誘拐未遂を実行した人たちで変わらないと思う。狙いは、ストヤノフ一族の活動を止めること」
「なるほどな。誘拐失敗したから、今回も仕掛けて来たってことか」
「……まあ、状況的に見たらそう考えることも出来るかもね。それで、多分なんだけど、私は、その誘拐を指示した黒幕について、目星をつけてるんだ」
「え、マジ? 本当ならアルマリア、超名探偵じゃん!」
「いやいや、ただ色々と触れる機会があったってだけ。それらすべてを説明するには時間がないから、本当に端折って話すね。私が目星をつけてる黒幕って言うのが――」
私が黒幕だと考えている人の名前を出そうとした瞬間、突如耳を刺す轟音が急に鳴り響き、震える空間の中、私たちは耳を塞ぐ。私たちが怯んでいる時、目の前に見覚えのある男たちがこちらに向かってくるのが見えた。そう、以前エルヴィラを誘拐しようとしていた男たち。私は皆に逃げるように声を出したが鳴り響く音にかき消されて届かず、かと思った一瞬、男たちがジーク達3人に一気に近づき、そして魔具による瞬間移動によって連れていかれてしまった。私が一人になった瞬間には鳴り響く轟音は消え、耳を塞ぐ必要がなくなっていた。私は一瞬の出来事にショックが抑えられず、息が荒くなる。ふと足元を見ると、また手紙のようなものが落ちており、それを拾い上げて中を見る。
(一人で来い、ね)
私は無表情でその手紙を握りつぶし、私が目指す目的地へと駆け出した。