第36話 宣告の手紙
空は曇り。重苦しい曇り空は人の心までも重くするようで、通学する学生たちの表情は少し暗い。私は両親から送られた本を読み進め、登校時間ギリギリで靴箱までたどり着いた。あと少しで本鈴がなるまさにその時、私は呼び止められた。
「アルマリア」
その声の主はエルヴィラの兄オリヴィンであり、見ると、職員室前にいた。他には、私の担任の先生と、さらにはレティシアもいた。皆の表情は、重く沈んでいた。
「おはようございます。えっと、皆さん集まって、何かあったんですか?」
「ああ、公表できない大事件が起きた。だから、協力してほしい。これを見てくれ」
オリヴィンにそういわれ、渡されたのは1通の手紙。私は直感ですごく嫌な予感がして、胎動する鼓動を抑えながら、その手紙を手に取り、中を開いた。
「これって……脅迫状??」
第一文を見れば、それが脅迫状であることが明確に分かった。手紙の内容は簡単にまとめると、
(ストヤノフ一族の現長女、エルヴィラ・ストヤノフを預かった。返してほしいのであれば、現在一族が活動している偉大なる規則の変更抗議活動を即刻中止せよ)
「恐れていた事態が、現実になってしまった、ということです」
担任の先生が冷静に呟く。先生も事情は把握しているようで、自然に会話に入っている。
「昨日、オリヴィンが放課後にいつものように迎えに行って、普通に家に帰ってはいたみたいなんだけど、今日の朝にはもう家に姿が無かったんだよね?」
「ああ、そうだよレティシア。置手紙があって、すぐに戻るからって書いてあったけど、その時には従者たちに捜索を始めさせた。それで、もしかしたら学校に言っているのかもと思った矢先、エルディン先生から連絡があって、この手紙が判明したということさ」
「私も以前にあった誘拐未遂は存じていたので、すぐに連絡しました。しかし、またこうも仕掛けてくるとは、相手も大胆な奴らですね。ああ、彼女の身が心配です」
手紙には、抗議活動が完全に中止されることが確認されるまで誘拐は続くとなっている。となると、少なくとも表面上でやめてもすぐに帰ってくることはない、ということになる。その事実が一体どういうことなのか、私は理解して背筋が痛く凍る。
「アルマリア。俺たちはこれから捜索に出る。君は、学校で、彼女のことを待っていてほしいんだ。もしかしたら逃走を図って学校に来るかもしれないし、可能性は低いが、学校に何か手がかりが残っているかもしれない。このことはあまり広めてほしくないが、誘拐未遂の現場にいたジーク達にも話してもらって良い。お願いする」
「……はい、分かりました。その、エルヴィラを絶対に、見つけてください」
「もちろん。それじゃあ、行こう」
そう言って、オリヴィン、レティシア、そして担任のエルディン先生は、エルディン先生の時空間魔法によって一瞬でどこかへと移動していった。残された私は、少し深呼吸をして、自分のクラスへと移動する。
(エルヴィラ……絶対に助けるから)
そう強く、心に想いながら。