第34話 進むべき方法
アーネストと屋敷で話をした翌日の放課後。皆は体験入部に行ったあと、私は一人屋上へと上がる。
今日は先客もおらず、一人の世界に浸ることが出来た。私はベンチに座り、空と対面した。
(いろんな出来事はあったけど、少なくとも昨日の話しと気づいたことをまとめると……)
アーネスト視点だと姉のレティシアと、エルヴィラの兄オリヴィンは付き合っている、あるいは恋人相当の親密な中にいて、アーネストはその状況について悩んでいる。姉を応援したい気持ちもあり、純潔一族の伝統を守りたいという気持ちに挟まれている。これは彼の話していたことだ。
そして、もう一つ察したことがある。昨日、あの部屋にあったローブは、確実に見たことのあるものだった。エルヴィラが誘拐された時に見たローブ、魔物の襲撃があった時に見たローブ。偶然かもしれないけれど、ローブ自体は同じものだった。これが何を意味するかは、ここまでくると様々な推測が出来る。
「マリア! やっぱりここにいた!」
考え事をしていると、急な声が頭に響きやすい。私を呼ぶ声に私はびっくりして、体を震わせる。
「エルヴィラ。もう考え事してたんだから大きい声は驚くよ」
「ごめんごめん! となり、座るね!」
エルヴィラは笑顔でそう言い、私の隣に座った。座ってからの彼女は、私と同じように空を見上げ、それでいて、何か落ち着かないのか、両手の指をしきりに動かし、絡ませていた。その静寂は、彼女の声ですぐに終わる。
「あの、さ。前、兄さまと、レティシアさんが一緒に戦った時のこと、覚えてる?」
「覚えてるよ。二人ともすごく強かった。特にオリヴィンお兄さんは、やっぱりまだまだ余力残してる感じだったよ」
「でしょ! やっぱりすごいよね、兄さま。……あれじゃ、モテモテにもなるよね」
「どうしたの? 急にブラコン発症でもしたの? 別に私は良いと思うけど……」
「ち、違うよ! 違うんだけど、さ……あの、マリアから見て、あの二人って、どんな風に見えたか、知りたいなって」
「ふーん。どんな風に、か~。正直に言えば、レティシアさんがオリヴィンに向ける眼差しは、小学部のある時のエルヴィラな感じだったよ」
「え、それって、――っ!」
「そ、ジークに向ける熱い……」
「わ、分かったからもう口に出さないで! ……まだ恥ずかしいんだから!」
「はいはい。だから、少なくとも、レティシアさんは、お兄さん、オリヴィンに対して何かしらの熱い感情を持っているんじゃないかって、感じたかな」
「そっか――」
エルヴィラは少し笑顔に影を落とし、空から目を背ける。
「あの、マリア」
「うん」
「やっぱり、兄さまが、自由恋愛に対しての活動を積極的にやってる理由って、つまり、そういうこと、だよね」
「まあ、推測されることをそのまま事実と考えちゃうとね」
「まあ、事実確認まではちゃんと取れてないから、確証はないもんね。――自分がやるべきこと、やる必要のあることが、分かった気がするんだよ。だから、マリア」
「うん」
「ありがとう」
「いえいえ。――私にできることは、協力するから」
「――うん」
エルヴィラは最後に笑いかけながらそう言い、そしてベンチから立ち上がって屋上を後にした。
その背中は、なにやら大きな使命を帯びて門をくぐる、勇者のように映った。