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第32話 ほんの少しだけ動き出すこと

「こんにちは、アーネスト。その言い方だと、あなたもサボってるって感じかな?」


 私は彼に近づきながら質問する。彼は寂しそうな顔で不機嫌な返答を返す。


「ふん。そもそも純潔一族が部活動なんてものに勤しむ暇なんてない。……本来なら、騎士養成学校に入学せず、研究学校に入って、未来ある研究の一端を担えるはずなのに……」

「そういえば、色々と事情があるんだったっけ?」

「――僕が入れる学校はもう騎士養成学校くらいしかなかった。なのに、お金のかかる部活なんて、やれるわけない」

「お昼も売店で安いものがほとんどだったね、そういえばさ」

「……お前も、純潔の癖にって、見下すんだろ」


 アーネストは珍しく弱弱しい目を私に向ける。悲しみの感情を露わにする人に、嫌味を言うほど、私は他人に興味はない。


「うーん、別に、どんな人だからこうあるべきだとか、そういう存在の癖にとか、そんな見方はしないかな。ただ、目の前にある事実を、そうなんだって理解するだけっていうか。そこまで複雑なこと考えないよ。だから、お金がないから部活はしないって言うのも、そりゃそうだって思うし」

「……流石は外から来た人間だな。伝統に染まってない」


 アーネストは、少し表情が柔らかくなったような口調をして、私から顔をそらす。そして、すぐに私に言葉を投げかけた。


「少しお前に聞きたいことがある。学校だと話しにくいから、少し付き合ってくれ」

「学校で聞きにくいこと? まあ、答えられる範囲なら別に良いけど」

「それじゃ、付いてきてくれ」


 彼はそう言って立ち上がり、屋上の出入口に早歩きで向かって行き、私のことを待たずそのまま言ってしまった。私も彼を見失わない程度について行き、着かず離れずの距離感で彼について行く。

1階の下駄箱に行き、外履きに履き替え、彼の後をついて行く。

 学校を出てから街道を歩き、さらに街壁の門をも出ていく。外の土の歩道を歩き、近くの小さな森に続く。流石に学校の人も目もないだろうと思い、彼に駆け寄り、話しかける。


「ねえ、どのくらいまで歩くつもり? 安全とは言えこの森の中じゃないと話せない内容な感じ?」

「まあ、そうとも言える。どうせなら、話すに値する場所の方が良いと思ってな。ほら、あそこだ」


 彼が指さした先に合ったのは、朽ちた門と庭園、その先にある緑生い茂る2階建ての屋敷だった。もはや使われていない建物は、森のごく一部の風景として溶け込んでおり、自然物のように認識してしまう。


「もしかして、あれって、あなたの一族のもの、だったり?」

「そうだ。あれは、僕の一族がすでに放棄した屋敷。今は僕しか来ない歴史の場所」


 彼はそう言って、朽ちた門の隙間を慣れた動きで通り抜け、緑一色となった庭園を進み、屋敷の正面玄関を開ける。そして、私たちは屋敷の中に入って行った。

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