第30話 平和と不穏
司令塔を失った魔物たちの退却は早かった。群れを成していたウルフたちは散り散りになっていき、そして街の外へと姿を消していった。
私は安心したのか、ぐったりと力が抜け、一息ついた。
「いやあ、すごかったよ、アルマリアさん! ありがとう、一緒に戦ってくれて!」
「いえ、自分に出来ることをやっただけです。やっぱり、二人はすごく強かったですよ」
「いや、アルマリアは中学になったばかりなのに、こんな戦い方が出来るのはセンスが良い。いずれ俺たちを越えていくだろうな」
オリヴィンとレティシアはお互いに顔を見合わせて頷く。自分自身、そのセンスというものを実感できていないが、第三者から見たらそう見えるようだ。そうであるなら、今の瞬間は、素直に喜んでおこう。
「お兄様! マリア!」
「姉さん!」
門の方から二人を呼ぶ声が聞こえる。そこにはエルヴィラとアーネストがこちらに駆けてくる姿があった。二人の姿を見たオリヴィンとレティシアはすぐにお互いの身内の方へと歩み寄る。
「エルヴィラ。父さんと母さんは?」
「うん、街の防衛で奔走したよ。わたしも少しだけお手伝いした。お父様が、お兄様も一度戻ってきてほしいって……」
「分かった。行こう」
「姉さま、けがはない?」
「大丈夫だよ、アーネスト。ほら、私たちも母さんたちの所に向かわないとだね」
そうして、純潔の両一族はそれぞれの家族の元へと戻ることになる。門のところまでは一緒に私たちは歩き、そして街の中のいくつかに分かれた道の交差点で、それぞれの家の方角に位置取り、それぞれの年長者はお互い向き合う。その光景は、その場にいた騎士団の人たちや町の住民たちも静かに見守っていた。
「シュプリンガー一族の助力により、無事に防衛出来たと言っても過言ではない。またこの街の危機が訪れし時は、また共に戦えることを願う。この度は、ストヤノフ一族を代表して、お礼申し上げる」
「いえいえ、こちらこそ感謝申し上げます。この街を想う気持ちは同じ。一族的な立場はあれど、その共通の想いの元、街の危機が訪れた時は、また共に戦いましょう」
そういって、二人はそれぞれの弟と妹を連れて帰路についた。少しの瞬間にエルヴィラが私に手を振り、私も小さく振り返す。そしてほんの少しだけ、シュプリンガー一族の方に目を向けると、明らかな敵意をした視線をストヤノフ一族へと向ける、アーネストの姿が映ったのだった。それは恐らく、氷牙の貴公子に向けられたものだったと、何となく感じ取ったのだった。
徐々に日常へと帰って行く空気を感じた私は、学校の屋上に置きっぱなしになっている荷物を取りに戻るため、再び風魔法を体に纏い、長距離ジャンプをして家屋の屋上へと飛び移り、戻って行ったのだった。