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第2話 始業式前のちょっとしたいざこざ

 先ほどのトラブルから少しして、私たちは学校区の敷地に到着した。私たちと同じ学生たちと、その親たちが各々の学校へと向かい、新学期に向けて意気揚々と歩いている。


「わあ、すごい人込みだね! やっぱり始業式だからかな?」

「それはあるかもね。エルヴィラの両親は始業式来るの? あのお父さんは絶対に来そうだけど」

「うん、来るよ! ちょうど時間少し前に来るって言ってた! お母さんは……多分来ない」

「仕事で?」

「ううん。お兄ちゃんの高等部の方に行くって言ってた。多分、私の方には来ないよ」

「そっか……。大丈夫、私がいるから寂しくはないよ」

「流石マリアちゃん! 持つべきは友達だね!」


 エルヴィラは私の手を握り、笑顔を見せる。ふわっと柔らかい笑顔は古代文明から続く偉大な血族の高貴さを感じさせた。

 私たちは談笑もほどほどに、オステンドルフ騎士養成学校の中等部の建物へ向かった。道中は小学部のクラスメイトとは合わず、知らない人たちしか会わないまま、校舎の玄関前までやってきた。

 玄関前には大きな掲示板が設置され、そこには1年次のクラス分けの内容が書かれていた。私とエルヴィラは自分の名前が載ったクラスを探す。すると、私たちの名前は同じクラスの中に書かれていた。


「やった! 私たち、同じクラスだよ! これでまた一緒に遊べるね!」

「そうだね。またお昼ご飯の奪い合いが出来て嬉しい」

「良いね! もっともっと奪い合おうね!」

「……一応言っておくけど、皮肉で言っただけだよ」

「うん、分かってるよ!」


 今度のエルヴィラの笑顔は、少しいらずら心が含まれているような、そんな笑みだった。その時、校庭の方から大きな声が響いた。見ると、男の子が一人と、3人のお琴の子の集団が対峙しているように見えた。気になった私は、魔法を発動し、風を発生させて声をこちらに届きやすくして、少し聞き耳を立てることにした。


「貴様、無礼だぞ。この純潔一族であるマクシミリアンの長男であるこのアダルベルトに向かって何をそのような言葉遣いをするなど」

「え、いや、俺はただ、鳥の巣を魔法だ破壊しようとしてたあんたを止めようとしただけだぞ。有名な一族ってのは知ってるけど、あんまりにもやろうとしてたことが鳥たちにとってかわいそうなことだったし」

「ほう、そうか。かわいそうか。なら、我の魔法の試し打ちに相手になってもらおうか。あの鳥たちの身代わりに、貴様がなるのだ」

「え、それもそれでおかしい気がするが。そもそも試し打ちなんて誰もいないどっかでやればいいんじゃないのか?」

「違うな。我は生物に打ち込み、その魔法が生物にどう作用するのかをみたいのだ。魔法を追求する純潔一族の使命は偉大なのだ。その受け手に慣れるだけ光栄に思うがいいさ」


 そん会話が、風に乗って聞こえて来た。どうやら純潔一族の蛮行を、彼が止めたことで起きたいざこざのようだ。しかも、その彼は、小学部で一緒だった、あのジークだった。


「ね、ねえマリアちゃん。あそこで話してる男の子、ジークだよね」

「そうだね。なんか、純潔一族の怒りに触れた感じみたい。まあジークらしいけどさ」

「ねえ、マリアちゃん」

「うん、分かってる。行こう」


 私たちは早歩きでジークの方へと近づく。エルヴィラの考えてることは分かってる。ジークに加勢し、穏便に場面を収めようとしているのだ。私も少し近い考えを持っていたので、一緒にジークに近づく。


「あれ、アルマリアにエルヴィラじゃんか。そっか、二人も中等部に上がる進路だったっけ。今俺は取り込み中だから、また後で話そうぜ」

「ジーク。私たちはその取り込んでることに首を突っ込みに来たんだよ。全く、何を話してたのかは聞こえたから大体状況は分かってるつもりだけど、一体何をやらかしたの。純潔一族さまに対してさ」

「この人らがあそこにあった魔鳥の巣を魔法で破壊しようとしてたから、俺の炎魔法で止めたんだ。そしたらこうなった」

「止めただと。危うくやけどするところだったぞ」


 私たちの会話に純潔一族が割り込んでくる。その純潔一族と取り巻きは、明らかにこちらを見下しているような目線で私たちを見ていた。


「えっと、ごめんなさい、私の友達がなんかやっちゃったみたいで! でも悪気があったわけじゃないと思うんだ! だから、争いごとはやめて、話し合わない? ここは穏便に、ね!」

「残念だが、すでにそいつが俺の魔法の試し打ちの的になってくれることで話がまとまっているのでね。その申し出は無効とさせて頂く」

「いや、俺は承諾した覚えはないが。勝手に思い込みで魔法撃たれるのは納得しない」


 ジークは先ほどよりも強い口調で話す。そんな彼の言葉も、もはや純潔一族には雑音にしか聞こえていないようで、すでに魔法を撃つ準備をしていた。


「貴様の意見は聞いていない。我は予告をしただけだ。さあ、我の天性属性である、毒魔法の餌食になってもらうか」


 私も話を聞いていて、話し合いでは穏便に済ませることが出来ないと悟る。エルヴィラは不安そうに私を見る。ジークは納得していないと、未だに声を上げる。私は心の中で一瞬、激昂が走った。

 その時、私の感情に呼応するかのように、空模様が急激に変化した。上空には重々しい黒い雲が集まり、生暖かい強風が吹く。雲の中にはゴロゴロと雷鳴がとどろき、今にも雷雨が発生しそうになった。天候の急激な変化に驚いた純潔一族は、手を止めて空を見る。


「私はそこまで怒らないタイプだと思ってるけど、今回は違うかもしれない」


 私は一言そう言い、空に手を掲げる。それに合わせて、大粒の雨が凄まじい勢いで降り始めた。一気に地面を濡らし、私たちを濡らす。雨の匂いが地面にぶつかる雨の音で、純潔一族の声は私たちに届かない。何かを私たちに言っているようだが、すぐに校舎の方に逃げていった。

 ひとまず喧嘩に発展しなかったことに安心して、その感情に呼応してか、再び天候が変化し、元の雲がある晴れに数秒で戻った。


「おい、今のアルマリアがやったんだよな。多分」

「す、すごいね! ほら、小さな天気の変化とかはやってたけど、まさかこんな規模の変化もできるなんて、すごいね!」

「う、うん。正直、ここまでのは初めてだった……。でも、二人とも無事でよかった。ジークも、毒魔法の的にならなくてよかったよ」

「そうだな。ありがとうな。でも、まあいざそういう事態になっても、俺なら平気だったと思うけどな」

「喧嘩にならなかったって意味で良かったんだよ。始業式当日で喧嘩とか、友達が見てもヤバいでしょ」

「あはは、本当にそれだよね! さあ、早く教室に行こうよ! 私たちの新しいクラスに!」


 エルヴィラはそう言って、私の手を引っ張る。ジークの手は握らないあたり、まだエルヴィラにはあの気持ちが残っているのだろうか。私たちの後を追うように、ジークも歩いてやってきていた。


 玄関前の掲示板を見ると、ジークも同じクラスだった。そして私たちは、騎士養成学校の中等部の教室へと向かったのだった。高鳴る気持ちを抑え、緊張が入り混じる鼓動を感じながら。


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