第27話 やるべきことは
オリヴィンとレティシアは取り巻きのウルフたちを消滅させ、上位種のウルフに視線を送り、少しずつ前進する。上位種のウルフは合わせて後ずさるが、数歩下がった時、空高く遠吠えを始めた。
それが再戦の合図となり、オリヴィンとレティシアはそれぞれ氷と地属性の魔法で攻撃を再開した。
上位種ウルフは爆破魔法で地面を爆破し、その衝撃を利用して攻撃魔法を弾く。そして素早い身のこなしでジグザグに動き、狙いを定めさせない動きで二人に接近していた。
「エルヴィラ様、アーネスト様!」
その時、ふと門壁の見張り塔からクラスメイトを呼ぶ声が響く。
「両親方より集まるようにとのお達しがありました。すぐに来ていただきたいとのことです」
その言葉を聞いた二人は顔を見合わせる。
「なんでお前の一族と一緒のタイミングなんだ」
「知らないよ! でもまあ、多分お兄様とあんたのお姉さんが一緒だから、何かあるんじゃない?」
「仕方ない。戻るか」
「ごめん、マリア! 私たちは一度戻るね!」
「分かった。気を付けて」
私たちは短く言葉を交わし、そして二人は見張り塔から下へと下って行った。何故二人が招集されたのかは、下の騎士団の叫び声からもう理解出来た。
「魔物の群れが他の門へ侵攻してきている! 正門の者たちから再編成し、守りを固めよ!」
恐らく、先ほどの上位種ウルフの遠吠えが、侵攻の合図だったのだろう。他の門への侵攻を魔物たちが始めていたらしく、恐らくはエルヴィラ達も純潔としての加勢をすることになった。
最初はなんてことない魔物のはぐれが来ただけかと思っていたが、予想以上に重大な出来事になってきていることを感じ、自分自身もここで見ているだけで良いものか、悩み始める。
「オリヴィン!」
その時、下の方かレティシアの叫び声が聞こえた。そちらに目をやると、オリヴィンが魔物の群れにいつの間にか囲まれ思うように動けない状況となっていた。レティシアとは分断され、各個撃破を狙われているような状況だ。上位種ウルフは鋭い牙と爪、そして通常の2本分ほど長く、先端が鋭利になっているしっぽを駆使して、レティシアに襲い掛かっていた。さらに、遠くから援軍の魔物たちがこちらに走ってきており、その方向は明らかに正門に向かっていた。
私はこの光景を見た瞬間、危機感を覚える。
(このままだと、あの魔物たちは正門になだれ込むことになる。二人を抑えている間に、街に侵入される……一気に司令塔を抑えないと)
私は瞬時にそう考え、気付いたときには風魔法を纏い、飛び出していた。真っすぐ、レティシアを襲うい上位種ウルフに向かって。
(……こういう時はもう何も考えなくて良いんだよね、お母さん)
私は、上空へ広がる大空へ問いかける。力を貸してほしいと願う。そして、私は右手の手のひらを開いた。その刹那、突き抜ける強風が吹き始める。私の髪が揺れ、草木が揺れる。門に掲げられた国旗と都市旗が波を打つ。その強風の一部を、私は槍のイメージを持ち、そしてそれを手のひらへと意識を向けた。吹いた強風は私の手のひらへと集結し、それはやがて自身を越える1本の槍に成った。私はそれを掲げながら、上位種ウルフの方へと突撃する。
「レティシアさん!」
私は彼女の名前を叫ぶ。私に気づいたレティシアは瞬時に姿勢を低くし、地魔法で上位種ウルフを牽制し、ほんの少しの油断を誘った。
「これで!」
上位種ウルフの目が合ったその瞬間、私はその槍を上位種ウルフへと突きつける。瞬間、凄まじい突風が、砂煙を巻き上げながら、一帯にいる魔物すべてを巻き込むようにして、炸裂したのだった。