第24話 出来ることを
私は放課後の時間、いつもの屋上へと赴き、空を眺めていた。流れる雲はゆっくりと流れ、青い空を彩っている。
エルヴィラの誘拐事件、メーヴィスの怒りの出来事から週をまたぎ、憂鬱な週明けを乗り越えた今日、一人になりたい気分だったため、自分の時間を謳歌することをみんなに伝え、こうして一人の時間を満喫していた。今日から部活動の新入生勧誘期間が始まり、構内のいたるところに勧誘のためのブースが設けられ、誘致の声は今も木霊する。当然私は、天文学部でもない限りはどこの部活も入るつもりはない。空に関係すること以外にはあまり精力的になれないからだ。
(みんなは何かしらの部活に入るんだろうし、そうしたら、放課後はどうやって過ごそうかな)
そんな贅沢な悩みも頭を巡り、風が私の体を撫でる。そんな時、構内の部活誘致の声をもかき消すほどの音量で、警戒を伝える金の音が街中に響き渡った。急な音に私はびっくりして飛び上がる。そして、鐘の音の後に必ず続く騎士団の警告内容に耳を傾けた。
「警戒連絡。警戒連絡。郊外に出没した魔物の群れの一勢力が接近中。騎士団の者は警戒態勢に移行せよ。住民の皆様は門から離れ、屋内へ避難してください」
どうやら、魔物の群れの一部がこちらに向かってきているようだ。魔物の系統にもよるが、この街の騎士団は強いとの評判を聞いているので、そこまで心配はいらないだろう、と考えたが、もしかしたら現役の騎士の戦闘が見れるのではと思い、流石に騎士養成学校の生徒の一員として、現役の騎士の戦いを見ないわけにもいかないと考える。
(……見に行ってみようかな。もしかしたら自分にも何か出来ることあるかもしれないし)
そう考えがまとまり、私は立ち上がる。風魔法を発動し、それを体に纏い、背の高い屋上の柵の上に飛ぶ。眼下には学生たちの姿に、近くを見回っていたであろう騎士たちの走る姿が見える。私は騎士たちの走る方向から、向かう門を予想し、そして私はぎりぎりまでしゃがみ、飛んだ。宙に浮く私の体は流れる風に逆らい進んでいく。まさに鳥になった気分で、自然と笑みが零れた。
この移動方法はずっと飛べるわけではない。私は途中で適当な建物の屋上に降りて、その反動でまた跳躍する。そうやって、騎士たちが向かっている門へと空の道を使って向かって行く。
「これで良いんだろ?」
私が適当な屋上に降りた時、ふと下の方から聞き覚えのある声が聞こえたような気が下して、私は一旦止まる。
声のした方を見下ろすと、そこには、見覚えのあるマントとフードをかぶった人と、怪しげな男がそこにいた。
「あんたからの依頼、引き受けたが、少し時間をくれよ。あんたも時間は欲しいだろ。準備が出来たら連絡する。それまでに、動きをバレるなよ」
怪しい男はそういうだけ言って、その場から立ち去って行った。マントの人物も、地魔法で地面へえと消えていった。私は顔を上げ、移動を再開した。
たどり着いたのは正門だった。すでに騎士たちは集まり、作戦会議を立て、住民たちを非難誘導している。私は騎士たちの目に留まらないように、正門の一番高い所へと降り立った。
外を見ると、外にもすでに騎士たちが陣形を整え、魔物が来ても最低限の迎撃が出来るようにしていた。
「君も来ていたのか」
その時、不意に私を呼ぶ声が聞こえ、その声の方向へと視線を向ける。門壁の屋上通路の方に居たのは、エルヴィラのあに、オリヴィンだった。それに、隣にはなぜかアーネストの姉、レティシアもした。
「あ、えっと、どうも……?」
「さっきの放送を聞いただろう。ここに来ている魔物たちは、どれも中位種と、それを率いる上位種だ。君では危険な戦いになる」
「大丈夫、です。ここで騎士団の戦闘を観察しようとお思っていただけなんで」
「そうか。まあ、恐らくは騎士団だけでは死傷者が出るほどの被害は出るだろうが」
「……これからくる魔物って、そんな強いんですか? 想像できない……」
私の疑問に、レティシアが答える。
「そうなんだよね。魔物の中位種ってだけでも普通の騎士団員だと死傷者が出るレベルで強いし、それが上位種まで混ざってるからね。放送だけだと危険度分からないと思うけど、実は今日この事態って、かなり危険度高いんだよ」
私は、甘い考えをしていたのかもしれない。何となく、騎士団だったら簡単に処理するだろうと思って観察に来てしまったが、もしかしたらこの判断は間違ったかもしれない。
「だが、ちょうど良かったな、アルマリア。君は、騎士団じゃなく、俺たちの戦いを観察するんだな」
「えっ……」
オリヴィンはそう言うと、そのまま門壁の屋上通路から、レティシアを連れて下へと降下した。途中でレティシアが地魔法によって足場を作り、その足場を使って降りていく。そして、二人は騎士団の団員達にこう叫んだのだった。
「騎士団の皆さまは街の中で待機をしていてください。ここは、純潔一族である我々、ストヤノフ一族とシュプリンガー一族が請け負いましょう」
丁寧でいて、有無を言わせない迫力のある声が、その場に響いたのだった。




