第22話 それぞれの事情 1
自宅のカギを開け、静かにドアを開ける。家の中は静かすぎて、外の喧騒が少し聞こえている。私は学生バックを玄関へ落とし、食料保管庫を開ける。中にはいつ帰って作ったのか分からないが、お母さんが作ったサンドイッチが置いてあった。傍には小さな箱が置いてある。私はサンドイッチを口で嚙みながらその箱を手に持ち、箱を開ける。その箱は、両親が良く使う伝言箱で、箱を開けるとお母さんの声が聞こえた。
『お帰り、アルマリア。今日も夜は家に帰れないので、いつものように、昼間に仕事を抜け出して作ったごはんを置いています。しばらくはこの状況が続くと思います。不便なことがあったら、ここに返事を頂戴ね。中学生らしい恋バナでも聞かせてください、って、お父さん気にしてたから、一応伝言ね。それじゃあ、お休み』
ほとんどはいつもの内容のものだった。私は特に何も思わず箱を閉じ、サンドイッチを食べきった。そして、浴室で体を流し、部屋着に着替え、ベッドに横になる。今日一日で起きたことを整理したかったが、もはや脳が考えることを諦めているようで、ちゃんと思案出来ない。私はため息をつき、窓から空を見上げながら、いつもの寝る時間になるまで、夜空を見上げていた。
翌日、私は少し重い気分で学校へ登校した。学校の正門を通り過ぎ、騎士養成学校中等部の道を歩き、下駄箱にたどり着く。中履きに履き替えていると、ふと隣から視線を感じた。私は視線を移すと、そこにはメーヴィスが居た。だが、その表情はいつものいたずらな笑顔とは裏腹に、とても暗い夜に閉ざされていた。
「おはよ、メーヴィス」
私は可能な限りいつもしているような挨拶をする。そんれにメーヴィスは一瞬反応したが、すぐにまた暗くなる。
「あの、えっと、……ごめん!」
メーヴィスは大声でそれだけ言い、そして教室の方へと走って行った。急な行動で私はあっけにとられ、彼女の背中を見送ることしか出来なかった。
私も後を追うように教室の方へと向かうと、メーヴィスの背中は教室に入らず、私たちの教室を通り越して行ってしまった。私はそのままメーヴィスを追おうとしたが、それはとある人物に止められた。
「アルマリア」
それは、オズマンドだった。彼も表所は暗く、浮かない顔をしている。
「あの、ちょっと、屋上で話しをしませんか。授業までには、終わりますので」
「――うん」
私は頷き、オズマンドを先頭に屋上へ向かう。解放されている屋上のドアを開け、そしてベンチの方へと私たち座った。座ってから少し、オズマンドは切り出した。
「……その、昨日の一件、メーヴィスから聞いてます」
私はさほど驚かない。私は続ける。
「そっか。まあ、そうだよね。でも、私は――」
「本当に、申し訳ない!」
私が話そうとしたとき、食い気味にオズマンドが謝りの言葉が発せられ、深々と頭を下げた。あまりにも綺麗な所作であり、そこに関して驚いた。
「いや、なんでオズマンドが謝ってるの?」
「その、なんというか、わたしはメーヴィスの保護者みたいな立ち位置な感じがあるので、メーヴィスが迷惑をかけたなら、それはわたしの事でもあるんですよ。だから……!!」
「分かった、分かったから。大丈夫、私は全然怒ってないし、謝ってほしいなんて思ってないから、安心して」
「で、でも……」
「謝ってほしいなんて思ってないけど、――でも、強いて言うなら、一体何があったのか、状況が知りたいなって、それは思ってる」
オズマンドは表情が硬くなり、視線を下げる。
「多分、簡単に言える事情じゃないんだってことも何となく分かるよ。だから無理に聞かない。知りたいと思うけど、絶対話してほしいとかじゃないからさ。だから、少なくとも私は気にしてないってこと、メーヴィスに話してあげてよ」
オズマンドは少し考え込み、そして、改めて頭を深々と下げる。ここまでオズマンドがするということは、恐らく相当な出来事が過去に会ったのだろう。確かに私は二人の友人になったが、だからと言って、友人に簡単に言えないことも多いのは誰にでもあることだ。私は良くも悪くも積極的な介入は好きじゃない。この状況については、特に私は気にせず、あくまで普通に接していくことにしよう。そう考えながら、私はオズマンドと一緒に教室へと戻ったのだった。