第1話 入学前の危機
中学部の入学式を控えたアルマリアは、学校の道中に小学部の友人のエルヴィラと合流する。
学校まで一緒に楽しい話しをしながら入学式に向かうはずだったが、道中に怪しい男2人組に絡まれる。
誘拐の危機に、アルマリアは自身の魔法を放つ。
空は晴れ。雲が青空を彩り、空を眺める物に哀愁を与える。手を伸ばしても空に手は届かないが、私の気持ちは空に届いていてほしいと願ってる。そう心に想いながら、私は中学部の入学式が行われる予定の体育館へと歩いていた。母さんからもらった新しいリュックを背負い、空を飛べない自分に不満を感じながら歩いていた。
「マリアちゃん!」
ふと後方から私を呼ぶ声が聞こえた。振り返ると、そこには、エルヴィラが早歩きで私の方へと近づいていた。彼女は屈託のない笑顔を見せ、私に追いつく。
「今日から中学部だね! 一緒のクラスだといいなあ」
「なんか、元気だね。こういう場面って緊張するものだと思うんだけど。少なくとも私は緊張してる」
「え、そうなんだ! 私はむしろわくわくが止まらないよ! だって、本格的に騎士になるための勉強や、あと実践的な勉強も始まるんだから!」
「まあそうだけどさ。エルヴィラはちゃんと騎士を目指したいんだって思ってるんだよね」
「もちろん! そっか、マリアちゃんはまだどうするか悩んでるんだっけ?」
「うーん、まあはっきりとはまだね。親からは特に騎士になれとは言われてなかったから。でも、なんか魔法の扱いにセンスがあるって言われて、なんとなくで来てたからさ」
「そっかそっか! まあそういう悩んでる人も珍しくないって! 中学部で色々勉強してたらその悩みもいずれ解決するよ! ほら、早く行こう!」
エルヴィラは私の手を取り先頭を早歩きをする。私は引っ張られるように、細い道を歩く。
「そういえば、最近こういう細い路地で盗賊が出てるって、騎士広報誌にあったよね。大丈夫かな」
「マリアちゃんはそういうの気にするタイプなんだ! 気にしすぎてもなにも始まらないよ! 大丈夫大丈夫!」
「へへ、残念だが今日は気にしないと駄目な日になっちまったな!」
エルヴィラがお気楽なことを言った直後、野太い男の声が聞こえ、私たちは驚いて足を止めてしまった。すると、前方の路地の影から、剣を腰に装備した男が一人、出てくる。後方に目をやると、もう一人男が道を遮り、私たちは挟まれてしまった。エルヴィラの手が強く握ってきて震えている。
「あ、えっと、あなたたちは一体誰? 私たち、お金何も持ってないよ!」
「お嬢ちゃん、俺たちは金が欲しいんじゃないんだよ。俺たちは君たちが欲しいんだよ! 君たちぐらいの女の子は高く売れるんだよ!」
男たちはそう言い、私たち一人が入りそうな大きな袋を取り出した。それを見たエルヴィラの手は大きく震え、肩も縮こまる。私は心に忍び寄る恐怖を押し殺し、自分の魔法を信じてエルヴィラの前に出る。
「お、何だよ黄色のお嬢ちゃんよ。まさか抵抗する気かよ!そんな体を震わせるのによ!」
「……そこをどかないと、痛い目に合うからね」
「へ、やってみろよおら!」
男は袋を地面に落し、代わりに剣を抜く。私は意識を集中して、あの時出来たイメージを思い出す。すると、私のすぐ上に急激に小さな雲が集まり、小さな稲妻が迸る。この様子見た男の脚は止まり、表情が固まる。私がただの女の子じゃないと、はっきりと認識した様子だ。少しだけ後ろの様子もちらりと見ると、後ろの男もほとんど同じ反応をしており、長剣を両手でしっかりと握って構えていた。
「へ、残念だな黄色のお嬢ちゃんよ。俺たちだって遊びでやってるわけじゃないんだよ。魔法を防ぐ方法くらい備えてるんだよ!」
前にいる男はそう言い、今度は盾を構える。どうやらその盾は魔法を防ぐことが出来るようだった。でも、私は構わずに意識の集中を続ける。
「大自然の雷は、いかなる遮りも貫いていく」
そして私は頭上に形成した雷雲から、1発の雷を呼び起こし、男が構えてる盾に向けて放った。一瞬の発光と轟音と共に放たれた蒼白い雷は狙い通りに盾に飛来し、次の瞬きの時には盾を粉々に粉砕して男を吹き飛ばしていた。凄まじい力によって倒された男は完全に恐れおののき、情けない悲鳴を上げてそそくさと逃げていく。後ろを見ると、そこにいたはずの男はすでに逃げていたのか、姿はもうなかった。エルヴィラは恐怖から解放されて力が抜けたのか、地面に座り込んだ。
「えっと、エルヴィラ、大丈夫?」
「……こ……」
「うん?」
「怖かったよー!」
エルヴィラは私の脚に抱き着き、泣きじゃくった。相当怖かったのか、涙と鼻水で顔がぐしゃぐしゃになるほどに泣き叫んだ。しばらくすると落ち着き、私は自分のハンカチを渡してエルヴィラは顔を拭く。
「はあ、落ち着いた! 本当に怖かったよもう! でも、やっぱりマリアちゃんすごいね!あんな強力な魔法がもう使えるなんて!
「そう、かな。でも結果的に無事でよかったよ。さあ、早くここを離れて学校に行こう」
「うん、行こう!」
私はエルヴィラの手を取り、再び学校へ歩き出す。なんだか中学部生活は荒れるかもしれないと、今日のこの出来事で宇少し不安に思ってしまった。