第17話 事情2
薄い雲は空を自由に移り行く。アーネストは静かにサンドイッチを食べ終わり、空を眺めていた。彼のおかれている状況は純潔一族としてはかなり追い込まれているような状況であるようだ。流石にこの国で生きている住民である以上、ある程度の事情は知っておいた方が良いと考え、再びアーネストに質問する。
「それで、なんでアーネストの一族が信頼を失ったの? 何か大きな出来事あったっけ? そういうニュースって疎くてさ」
「……お前が仲良くしているストヤノフの一族が原因さ。最近の奴らはかなり優秀さ。今の長男であるオリヴィン・ストヤノフを見ていれば分かるだろ。それに、エルヴィラ・ストヤノフも優秀だ。しかも、ストヤノフ一族は実力を持ちつつも、伝統を変えようとするその威勢の良さは、一般一族たちには受けやすいんだろうな。そのストヤノフ一族と直接的に比較されるのが、元々ライバル関係にあり、さらに今の世代で影響力も実力も低迷している、俺たちシュプリンガー一族なのさ」
「なるほどね。それで、一般的な世間の評価として、アーネストの一族は社会的信頼が低下していって、今じゃ仕事とかに影響するほどまでになったってことなんだ」
「そういうことだ。だから、俺はストヤノフ一族のことが大っ嫌いなのさ。勝手に比較されて、単純な感情の意見を出されて、純潔協会も世論を気にして俺たちを守らない。……姉は違うみたいだけどな」
アーネストの横顔は怒りではなく、悲壮感に沈んでいた。彼の抱える感情は、怒りだけではないのかもしれない。悲しむ何かがあるのだろうか。
「……はあ、喋りすぎたな。いくらごはんをくれたからと言って、何でも話すのはなんか違う。身の上話しはここまでだ。俺はもう戻る」
「そっか。分かった。色々と聞いてごめん。私はエルヴィラの友達だけど、でもだからと言って、まだ何もしてないのにアーネストと敵対することはないからさ」
「……ふん」
アーネストは最後は鼻を鳴らして、屋上から出ていった。彼の後ろ姿にどこか見覚えがあることを感じながら、彼を見送った。