第164話 蒼き夏の入り口
体育祭が終わって約1か月後、期末試験は無事にみんな赤点を取らずに経過した。見事に平均点少し上の点数でパスした私は、残り少ない学校の放課後は屋上に行き、行ける範囲で建物の屋根に飛び移って散歩をしていた。日差しは随分強くなり、長袖だと汗ばむくらいな暑さになっていた。馬車を行く馬に水浴びを指せている行商人を下に見ながら、思うままに風属性を使って屋根に飛び移る。体育祭を経て、よっり一層風属性を体に纏って移動することが息を吸うように自然に出来るようになった感じがして、柄にもなくその感覚を味わうために飛んでいるが、これがとても心地よい。そしていつものゴール地点は、時計塔だ。いつものルートを辿り、時計塔へ飛び移る。外のはしごを上ると、時計塔で登れる一番高い所に出て、そこで腰掛けて街を眺め、思いふける。
小学部でも少しは感じていたが、この都街、この国の階級社会、文化の歪さが身に染みた数か月間だった。そして、その違和感に気づけるのは、この国の純血ではなく、移住してきた私の家族だからこそ感じられるものなのだろう。それは分かるが、どうやら純潔一族は私のことも注目している。その理由は思い当たるものがある。私の使う天性属性の事だろう。もはや隠すことも出来なくなってきている。両親に話しても、根本的には変わらない。この国を出る以外には。でも、少なくとも私が大人になるまではそれは難しいだろう。この先何か仕掛けられたら、また戦わないといけないかもしれない。曖昧な気持ちではもういられないのかもしれない。
考えに浸っていた時、鎖が下から飛んできて、柱に巻き付く。そのまま下から巻き上がってきたのは、ミオだった。
「こんにちは、アルマリア」
「ミオ、病院にいたんじゃなかった?」
「少しの散歩は許可されてるんだ。まあ、この時間からの外出は病院の人たちが嫌がるから、結局勝手に出てきてるんだけどね」
「ミオって、結構アクティブだよね。病院にいるのが本当に苦痛に見えるよ」
「苦痛なのは事実だからね」
ミオは隣に座り、日が落ちる所を一緒に見る。とても大事そうに、丁寧に。
「あのね、アルマリア。実は、お願いがあってきたんだ」
「お願い? 私に出来る範囲なら良いけど」
「夏休み、手伝ってほしいことがあるんだ。多分その時も病院にいると思うんだけど、それを分かったうえでお願いしたいんだ。夏休みが終わるころにある流星群を、一緒に見に行ってほしい」
「ああ、ペルセウス流星群のことね。あれ、今年の予測は夏休みの終わりごろだっけ」
「ううん、実はもう一つあるんだ。ペルセポネ流星群だよ」
「ああ、名前は聞いたことある。全然メジャーじゃないし、観測できるのも珍しいんだよね、確か。良く知ってるけど、それも本の知識?」
「そうだよ。今年は絶好の観測年なんだって。だから、見てみたくて。一人じゃなくて、誰かと2人で。イヴリンは多分、病院で寝てっていうだろうから、こういうお願い出来るの、アルマリアかなって思って」
「ミオが本気で見に行きたいな、私は連れていくよ。確かに私もその流星群は気になるからね。それじゃあ、約束」
私はごく普通の感覚で小指を出す。小学部の時に父が言っていた、和の文化の約束事のを決める行為のようだ。知識豊富な彼女ももちろんそれが何かを理解しており、指切りをした。
この約束が、夏の夜空を運命づけたのだった。
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