第158話 完全燃焼
第2走者のリンが走り始めてから、空気は少し変わる。明らかに彼女目掛けて飛ぶ水の弾丸がいくつも飛来していた。リンは全身を炎で包み、後方に炎を噴き出して推進力を作り、魔法と一体になって全力で走っている。その足元や顔に水の弾丸が飛んできて、彼女は避けようとするが、すべては避けきれない。その妨害は悔しくも結果を出し、少しだけリンは後方を走る。
審判はその行動に何も言わない。だからリンも耐えながら走るしかない。水属性の弾丸が当たる度、水が蒸発して煙が立つ。誰もがリンは巻き返せない状況だと察し始めた時だった。
リンはまだ諦めていない。
「絶対に――負けない!」
一声彼女の声が空に響く。その声を皮切りに彼女はさらに燃焼し、より巨大な炎を作り出した。特に足は紅蓮に染まり、炎の髪は大きくなびき、足裏からも炎が噴射する。凄まじい熱気と闘気が彼女の体を前に進ませ、開いた差が少しずつ縮まってくる。その先にまつ第3走者のエルヴィラは大きく手を振り、目指すべき先を照らす。もはや妨害する余裕もない他の走者たちは抜かされまいと死に物狂いで前を走る。それほどにリンの気迫がその場の流れを侵略していた。
そして、開いていた差はほぼ無いに等しいまでに縮まり、バトンは第3走者へと渡ったのだった。