第153話 全力の果ては
オズマンドはそのままアンカーへと番を回す。私は自分のチームのアンカーへと声をかけた。
「イヴ、ラストスパートだよ」
イヴリンはうなづき、そのままオズマンドからバトン変わりの腕輪を受け取って一生懸命に走り始める。最後の障害は、見る限り普通のハードル走のように見える。先を走る人たちの行動を見るに、ハードル自体を何かすることは出来ないようになっているようだ。それに、イヴリン含めアンカーは全員、お世辞にも運動が得意なように見えない。つまり、ここで一番有効的なサポートの形は恐らく――
「イヴリンはそのまま全力で走って。私の魔法をイヴリンに纏わせて、運動能力をサポートするよ」
私は風属性の鳥を作り、イヴリンへと撃ち出す。羽ばたきながらイヴリンの肩に止まり、そのまま風属性がイヴリンの体を覆う。風属性が宿ったイヴリンは明らかに先ほどまでの重苦しい動きから一変し、浮くように走れるようになった。私はそのまま魔法制御して、ハードルを簡単に飛び越えられるようにサポートする。それだけで前を走る苦戦している数人の人たちを抜かし、トップ3入りした。その差も少しずつ詰まっていく。そして最後の直線。私は全力でイヴリンの体を風属性で軽くし、背中を押した。一人抜かし、ゴールテープは目前。イヴリンと前の走者は体を前に押し出し、ほぼ同時にゴールした。イヴリンが勢いで倒れないように風属性で支えながら、ゆっくりとイヴリンは地面に倒れ込んだ。
「イヴリン! マジ良かったよ!」
「アルマリアのサポートがあったとはいえすごかったですよ」
メーヴィスとオズマンドはイヴリンに集まる。イヴリンはもはや言葉を話さず、笑顔で二人にピースサインを送っていた。
その間にゴールの判定が進んだようで、放送の声が聞こえる。その声は、あのソルベルクだった。彼は私の方を見ながら、その冷酷な判決を言い渡す。
「今のゴールの判定は、ラウルが一位、イヴリンが2位という結果になりました。おめでとうございます」
彼は私に向けて、冷たい笑顔を向けていた。