第132話 視線の思惑
魔法なしの競技と言えど熱狂が鳴り止まぬ体育祭は午前のプログラムも終わりが近づいている。エルヴィラ達も声を高らかにあげ、楽しんでいる様子だが、私は素直に楽しめない状況でいた。体育祭が始まってからずっと、視線を感じている。それも複数。そのうちの一人は、あの来賓で来ている街政の人物、クラウス・フラルダリウスだ。すでに何十回も視線が合っている。向こうも特にそらすこともなく、自然な振る舞いをしている。他の視線も恐らくは純潔協会などに関わりのある人たちの物だろう。まさに一挙手一投足を余すことなく見られている。
(変に刺激しないように私からはエルヴィラ達に言わない方が良いよね)
私は特に視線を感じること自体に嫌な気持ちはない。今日の体育祭は我慢してやり過ごすしかないのかもしれない。同じ純潔一族のエルヴィラとアーネストには、私から話しかけることもしないように意識していた。
そしてついにプログラムも午前中で最後のものになる。魔法なしのクラス全員リレーだ。学年ごとに走って順位を決める。最初は1年の私たちだった。席から立ち上がり、待機場所へと移動することになった時、私はふと、クラウス・フラルダリウスの方に視線を向けた。そこにはソルベルクが腰を折り、クラウスの傍で何かを話しかけていた。ソルベルクの話しを聴いたクラウスは頷き、ソルベルクは時空間属性魔法でどこかへ移動していった。
私は怪しく思っていたが、立ち止まることなく待機場所に着く。第一走者の準備が進んでいた、その時だった。どこからから怒号が聞こえた。
「おい、騎士団長の糞野郎はここか!!」
声の主はどうやって侵入したのか分からないが、校庭の端にいた。服はボロボロで、見た目は明らかに囚人に近い。泣きながら、怒りの声を上げていた。
「てめえのせいで俺の人生はむちゃくちゃだ! だからお前が大事に思ってるこの養成学校の餓鬼どもをぶっ殺してやるよ!」
その男はそう言うと、一枚の紙を取り出す。そこにはかなり複雑な魔方陣が描かれていた。その魔方陣は光を放ち、魔法が発動する。男の周辺から大きな青黒い光がいくつも出現し、そこから魔物の群れが現れた。
ソルベルクが言っていたことが、本当に起きてしまった。