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第121話 空に放つ舌打ち

 エルヴィラ達の練習を遠目から見るため、少し離れた場所のベンチに座る。彼女たちの楽しく話をする声が響き、放課後の空気を彩る。私は深呼吸して空を眺めていた。

 そんな時、私を呼ぶ声が聞こえた。


「穏やかな時間は人の心を満たすね」


 私は声のする方に視線を移動させる。そこには、薄い青の長い髪を風に揺られる男子が一人、私の方を見ていた。明らかに彼が放った言葉は、私に向けられたものだろう。


「時間、空間。それは世界、星のもとに生きる生物たちにとって当たり前で、それでいて一番重要な法則だ。時間が無ければ人は前に進めないし、空間が無ければ存在が出来ない」

「まさに中二病の男子が好きそうなフレーズだね。早めに卒業することをお勧めするよ」

「これは手厳しいな。グラノルスはこの気の強さにやられたんだ」


 その男子はゆっくりとこちらに歩き、ベンチの端に座る。美形な顔は此方を向く。


「君のクラスは、この体育祭、優勝を狙っているのかな」

「多分そうだよ。かなり熱量持ってる。運動が得意な人たちもいるみたいだし、良い線まで行けるかもね」

「良いね。従属一族たちは体育祭の評価が今後に影響するのが常識だし、頑張るのは当然だ。それじゃあ、君は? どこの純潔一族とも繋がらず、一般一族として生きてる君はこの体育祭、本気で勝とうとしているの?」

「まあ、そりゃ、皆頑張ってやるから、手を抜くつもりはないけど」

「それなら、君に良いことを教えてあげよう」

「良いこと、ね」

「僕の従属一族の末端に、僕と同じクラスのフィオレの一族がいるんだ。君たちは小学部の時に良く遊んだ仲だってね。つまり、中学生の僕でも、フィオレの一族のことなんて、どうとでも出来る立場にいるんだ」

「……ほんと、純潔一族って性格悪い奴らが多いね」

「好きに言ってくれ。君は選抜リレーに出るんだろ。君は一位で走るんだ。どんな魔法を、どんなふうに使ってでもね。一位で通過しなかったら、フィオレの家族は社会的に不利な立場にする。今の仕事はやめ、さらに底辺な仕事しか出来ない状況にする。知ってるかい? 彼女の母親は花屋さん、父親は時計販売店の店長なんだよ」

「なんで、私に対してじゃなくて、私に関わってる人たちを狙うの? 汚いやり方が純潔一族の戦略なの?」

「君に対しては、こうした方が一番効果があるのかなって、思っただけさ。もう理解してるだろ? 純潔協会、少なくとも、この街の純潔達は君に興味が出てきている。君が拒否しても、あらゆる手を使って、君のことを知ろうと動くよ。あらゆる状況で、どんな魔法を使うのか、興味があるんだろうね。当然、このソルベルク・フラルダリウスも君に興味がある。あの時は先生を抑えるのに必死で君のことをよく見れていなかったしね」


 純潔一族のソルベルクはベンチから立ち上がる。私も釣られて立ち上がり、彼と向き合った。

「この国で生きるということは、こういうことなんだ。純潔協会から目を付けられたら、いろんな方法で試されるんだよ。それじゃ、頑張ってね」


 そして彼は、時空間属性魔法を発動してその場から消えていった。私は静かに舌打ちをして、空を仰ぎ見たのだった。

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