第118話 静かすぎない静けさを求めて ①
フィオレとのやり取りの後、私は部室へと戻る。恐らく今日は誰も来ないだろうと思い、部室の掃除と確実にくるであろう期末試験の準備のため、扉を開く。しかし、そこには先客がいた。
「えっと、ミオ、だっけ」
彼女は静めの声で、淀みなく話す。
「こんにちは、アルマリア。イヴリンからは自由に来ても大丈夫って言われたから、来たんだ。誰も怒らないって」
「まあ、確かに怒らないけどさ。びっくりしたよ。どうしたの。静かなところならもっと他に良い所あるよ」
「ううん、ここが良い。なんだろう。校庭や校舎からの部活の音とか、遠くから少しだけ聞こえてくる感じが、むしろ私は大好きなんだ。静かすぎるのは嫌い。それはもう病院で体験してるから」
「やっとそこから出られたから、学校だと程よい音がする場所が良いんだね」
「そういうこと。それで勉強するよ。期末試験に向けて動かないと、勉強遅れてるし。運動出来ないから、勉強ぐらいしか学校を楽しむこと出来ないし」
「そもそもここ、騎士を目指す人とか、戦闘出来る人を目指す学校だけどね」
「しょうがないよ。私が入れる学校、ここしかなかったから。他は推薦だとか、純潔一族からのお墨付きとか、勉強だけじゃどうしようもない条件が多いから」
「そういえば、そんな学校が多いんだっけね。興味なかったけど、そう考えると、ひどい条件だね」
「そ、純潔一族の権力はほんと、何でもありなんだから。エルヴィラとか、アーネストさんとか、温厚派の一族はそんな権力を振り回さないけど、基本的には純潔一族のしたいように動かされるからね。学校も、お金も、庶民たちも。あーあ、こんな無駄な知識、病院で学ぶんじゃなかった」
「知識があるのはすごいことだと私は思うけどな。中学生でそんな、社会?の動きを知ってるの、すごいと思う」
「知識で苦しむこと、辛くなることも多いからさ。……病気の知識とかもね」
ミオは随分と大人ぶったようなことを言う。彼女の元々の性格なのかどうかは分からない。
彼女のピンクの髪が風に振れ、その目には儚い夢がつまっているように見えた。