第117話 優しい宣戦布告
次の日の放課後、私はいつもの屋上で空を眺めていた。エルヴィラ達は参加する種目の練習に行き、私は一人過ごすことになった。今日の空は雲が青い空を彩り、風が湿っている。
「こんにちは、アルマリア」
ふと私を呼ぶ声が聞こえた。見るとそこには綺麗な緑色のポニーテールをしたフィオレが、そこにいた。彼女はこちらを伺いながらもゆっくりとこちらに歩いてくる。
「フィオレ。ここにジークはいないよ」
「うん、分かってるよ。アルマリアと話したくて来たんだ。隣、良いかな?」
「どうぞ」
「ありがと」
彼女は隣の座る。ふわりといい香りが漂い、私は彼女の横顔を眺める。
「ジークから聞いたよ。体育祭で選抜リレー、出るんだって」
「まあ、そうだね。出ることにしたよ。なんか、勢いで手を上げたら皆意外に賛同してくれたんだよね」
「そりゃ、アルマリアは今同じ学年の中でもかなり話題になってるもん。純潔の人たち以外の学生は注目してるんだよ。不思議な風属性を使うって噂も広がってるから、属性魔法の性質的にも注目してるんだと思う。流石だね」
「知らない間にそんな噂とか広がってたんだ。なんか、気恥ずかしいな。そんなすごいものじゃないよ」
「それでも、前に魔物の群れが来た時に魔物のリーダーを撃退してたし、魔法実習の、あの戦闘の時のこともジークから聞いたよ。……本当に、わたしは全然、アルマリアには敵わないなって思うことがずっと続いてるんだ。すごいと思うし、でも、羨ましいって思ってる。もちろんいい意味でね」
フィオレは立ち上がり、私の前に移動する。彼女の目は、真っすぐ、私を見ている。
「わたしもね、みんなに言われて、選抜リレーに出るんだ。小学部の時もね、クラスリレーとか、アンカーやってたんだ。それと私の植物属性を使えば、多分誰にも負けない。直接攻撃されない、スポーツの中だとね」
「そうだんだ。むしろフィオレの方が私より全然すごいよ。私と違って、みんなからの立候補なんだしさ。それじゃあ、選抜リレーの時はお互い頑張ろうね」
「うん、頑張ろう。でも、その時は、勝つのは私だよ。それだけは、絶対に負けない。負けたくないんだ」
「う、うん。そっか。フィオレって、結構負けず嫌いだったんだね」
「普段はそこまでだけど、ごめん、これだけは、どうしてもね。だから、お互いに頑張ろって、言いたかったんだ。アルマリアも、遠慮しないで全力で来てほしいから。そうじゃないと……」
「そ、そっか。それは大丈夫。一応クラスの代表で出るから、出来る限りのことはするつもりだよ」
「良かったよ。うん、それじゃあ、私はもう行くね。話しを聴いてくれてありがとう。じゃあ、またね」
フィオレは小さく手を振り、ドアへと向かう。そこでこちらに向いてもう一度大きく手を振り、ドアに入って行った。恐らく彼女はただ勝負事に真剣であること以外の気持ちを抱えていることは想像出来る。私はそのことに気づかないことにして、再び空を眺めていた。